英雄譚なんて、僕には似合わない。第35話③
「なっ……?!」
ガラムドが急に顔色を変える。
それを見ていたフルは、今だと言わんばかりに攻撃を開始する。
右手に構えていた剣を手にしていた彼は、そのまま攻撃を行い、ガラムドの身体を真っ二つに切り裂いた。
ガラムドの身体はそのまま霧のように消えてしまったが、少なくとも危機は脱したのは、メアリーにも分かっていることだった。
いや、それよりも。
「フル、まさか会えるなんて……」
しかし、フルの姿は半分透けている状態になっている。
「メアリー。まさか僕も会えるとは思わなかったよ。……けれど、僕は一度きりしか会うことが出来ないんだ。……多分偶然というか、奇跡というか、そういう類いだと思うのだけれど、きっとカミサマがなんとかしてくれたんだ」
「カミサマ……ガラムドじゃあなくて……?」
メアリーはフルが何を言っているのかさっぱり分からない。
しかし、フルの身体はどんどん消えていく。
「ありがとう、メアリー。また君に会えて……。君を助けることが出来て、本当に良かった……」
「フル! フル! お願い、返ってきて!」
「それは、出来ないみたいなんだ。どうやら、僕の魂を、オリジナルフォーズを封印するための鍵として使ってしまっているみたいで、長い時間ここに滞在していると、どうやらオリジナルフォーズが復活してしまうかもしれないんだ」
「だったら、オリジナルフォーズを倒せば良い! オリジナルフォーズさえいなければ……」
「だめだ。だめなんだよ。メアリー」
フルの身体は最早見えなく成りつつある。
さらに、メアリーは話を続ける。
「フル! 絶対に、絶対にあなたを助ける! オリジナルフォーズを倒して、絶対にあなたを助けるから!!」
そして、フル・ヤタクミの身体は完全に消え去った。
◇◇◇
あれから。
惑星は、一つに収まった。
大学で起きた騒動も、一度はどうなることかと思ったが、案外誰も騒ぎ立てておらず、リニックは普通に大学に復帰することが出来た。
それどころか、今まで起きたことはまるで無かったかのように扱われていた。
正確に言えば、一週間程度旅行に行っていただけ、という風に記憶が書き替えられているような感じだった。
窓から外を眺める。
「英雄譚……ねえ」
あれからメアリーとは連絡を取り合っていない。彼女は、あれから英雄を探して旅をしているのだろうか。それすらも分からない。
まあ、そんなものは僕には似合わない。
僕には大学で研究をしていることがお似合いだ。
と、リニックは踵を返したところで――。
「あ、」
何かを思い出したリニックは、忘れようと思う風に呟いた。
「そういえば、彼女から錬金魔術のこと聞きそびれちゃったなあ……」
窓から強い風が吹き込んできたので、書類が飛ばされないように、窓を閉じるリニックだった。
第一部 完