英雄譚なんて、僕には似合わない。第35話②
一息。
「ですから、それは間違えなく進めなくては成りません。一度作り上げた世界は、最後まで責任を持って管理を進める。それが私たち神とその管理者の役割。……ですが、ガラムドは影神に操られ、その役割を奪われていたようですが」
さらに一息。
「結局は、私たちが全ての責任を負わなくては成りません。世界がいくつかに分裂しました。それも元に戻しましょう。眷属が破壊した星々がありました。それも元に戻しましょう。そして、二度と私たちが関わり合いのないように、私たちの次元と、貴方達の次元での世界を絶ちましょう。そうすれば、二度と影神が暴れることはありません。まあ、もう彼は影神としては勿論のこと、存在そのものが抹消されてしまいましたが……」
ちらり、とムーンリット・アートは影神の骸を見つめる。
すると骸がきらきらと輝いて消滅していった。
「骸は……どうなるのですか?」
リニックは恐る恐る問いかける。
「そもそもの話、我々は人間とは違う立ち位置にある存在です。ですから天国も無ければ地獄も無い。待ち構えているのは、永遠の無です。その意味が分かりますか」
「……いいえ、残念ながら、そこまで知識は持ち合わせていません」
「良いのですよ、それで。私は、結局、任せきっていたことが間違いだった。影神に任せきっていたからこそ、世界の暴走を引き起こしてしまった。そして、貴方達の世界もあんな風になってしまった。本当に、本当に申し訳ないことをしてしまった……」
「い、いや……そんな急に畏まられてもっ」
「結局、あの世界はどうなるつもりだ」
カラスミは剣をムーンリット・アートに向ける。
「カラスミ! 今、君が剣を向けているのは、誰だか分かっているのか!」
「知らんね。そもそも、帝国が信仰しているのはガラムド教だ。ガラムド様以外の存在を神と認めるつもりは毛頭無い」
「毛頭無い……ですか。ふふ、それについては仕方ないことでしょう。貴方達の世界では、神はガラムドだと教えられていた。いや、正確にはそういう風に仕組まれていたのですから。だから貴方達の世界を先ずは元に戻さなくては成らないのですけれど」
「?」
「元に戻す……つまり、六つの世界を一つにする、その大仕事が最後に残されています。その為にも、先ずはガラムドから管理者の権限を剥奪しなくてはなりません」