増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第33話③

「だから、それは心外だと言ったじゃあないですか。そもそもオリジナルフォーズを封印するためには、フル・ヤタクミという人柱が必要だった。だから彼には世界の為に犠牲になってもらった」
「世界が血の海になっても、フルが人柱になって問題ないと言えるの?!」
「……それは、ミスですよ。世界を正しく回していく上で、オール・アイが……リュージュがミスを犯した。この世界へとつなげる為に無理矢理世界を破壊しようとした。本来ならあれほどの出来事が起きたら上位存在が修正せねばならないのですが……」
「どういうこと?」
「上位存在があの世界を修正するために、人間やその他動物を一度『液体』に戻す必要があった。記憶エネルギーの媒体として地球が存在し、分割してアースと化した。しかしながら、記憶エネルギーの上限にも限界がある。限りがあるのですよ、幾ら惑星とはいえ、四十六億年分の記憶エネルギーを、人間は僅か二千年で使い切ろうとしていた。だから、管理者である私が処分を下さねばならなかった」
「処分……ですって?」
「世界を平穏にするために、記憶エネルギーの循環を強化した。あなたたちが『血の海』と名付けた現象ですよ。そもそも人間はあの世界においてウイルスと言っても過言では無かった。オリジナルフォーズはそのために世界から生み出された『白血球』と言ってもいいでしょう。そして人間であるあなたたちがウイルス。意味が分かりますか?」
「分からないわよ、いいや、分かってたまるものですかっ。それってつまり、」
「ええ。この世界はあなたたち人類を不要であると判断した。だから、オリジナルフォーズとメタモルフォーズは、世界を席巻するようになった。血の海によって記憶エネルギーは徐々に回復傾向にあります。けれども、未だ足りない。人間が使い果たしたエネルギーは、未だ足りないのです」
「記憶エネルギーを手に入れる……それって」
「記憶エネルギーを手に入れるために、私の部下が良く活躍してくれましたね。私の部下が誰であるかは、最早知っているでしょう。眷属という存在です。眷属という存在は、エネルギーを必要とする。あなたが黒い靄だと言っていたそれは……記憶エネルギーの塊。あなたも感じていたのでしょう、徐々に記憶が失われている、ということに」
「そんな……そんなことは……」
 メアリーは頭痛を感じる。
「そう。その頭痛こそが、記憶エネルギーの充填を感じたサインなのです。エネルギーには限りがある。人間はそれを使い切らなくてはならない。しかし、人間の身体とは不自由なことでそれを溜め込むことが出来ない。常に吐き出し続けなくてはならないのです。非常にもったいない。そうは思いませんか?」
 ガラムドは、メアリーの頭にそっと手を当てる。
 すると頭から黒い靄が消えていく――そんな感覚がした。
「これは、記憶を吸い取っていたということ。あなたは、祈祷師の血を引いている。だからエネルギータンクとしては有用だったのですよ。人間は記憶エネルギーを失うことで、記憶によって得られるストレスを解消出来る。つまり、人間が長生きする為には記憶エネルギーを失い、完全なる無となること。意味が分かりますか? 記憶エネルギーは、記憶というのは、人間にとって不要なのですよっ!」
「いや、いや、いやああああああああああああああああっ!!」
 白い空間に、メアリーの叫びが響き渡った。