英雄譚なんて、僕には似合わない。第33話②
そこは白い部屋だった。
そこは白い空間だった。
そこは空と地上の境界が定かでは無い場所だった。
そんな場所に、メアリーは一人置き去りにされていた。
「……そんな、リニックたちと一緒にやってきたはずなのに……。どうして?」
リニックは居ない。
ライトニングは居ない。
レイニーは居ない。
カラスミも、オール・アイも居ない。
誰一人居ない世界。
誰一人居ない空間。
何も存在しない間。
「……でも、何処か懐かしい」
そう、それはまるで母の腕の中で眠る赤子のような感覚。
「……でも、来たことが無い空間」
ここはメアリーが来たことの無い空間だった。
ゆっくりと、周囲の探索を開始する。
歩き始め、少しすると、何かのオブジェが浮かび上がった。
それはまるで十字架のような何かだった。遠くから見ると何だか分からなかったが、近づいていくとそれが何であるか定かになっていく。
「フル……?」
それは、ある一人の人間が磔となった姿だった。
フル・ヤタクミ。
かつての予言の勇者であり、別の次元に封印したオリジナルフォーズごと消えてしまった――はずだった。
そんな彼が、何故今ここに居るのだろうか。
分からない。答えはまったく見えてこない。
「フル。フル!」
フルに声をかけるメアリー。
しかしフルは答えない。
フルの肌に触れる。フルは冷たくなっていた。
「嘘……フルは死んでいる……」
「それは、あなたの心の世界に居るフル・ヤタクミを具現化した姿に過ぎない。とどのつまり、それはフル・ヤタクミであってフル・ヤタクミではない。意味が通ずるかしら?」
「あなたは……」
白の世界から、地面から、ぬるりと生えてきたその存在は、白と赤を基調にした服を身にまとっていた。
オール・アイに近いその存在は、しかして、メアリーには覚えがあった。
「あなたはご存じでしたね。お久しぶりです、メアリー・ホープキン?」
「ガラムド……。この世界の管理者にして、フルをこんな世界に閉じ込めた存在……」
「閉じ込めた、とは心外ですね。そもそもフル・ヤタクミは自ら望んでこの世界にやってきたのですよ。その意味を分かっていただきたいものですね」
「あなた……フルを閉じ込めておいて、良くそんなことが言えるわね……!」