英雄譚なんて、僕には似合わない。第32話②
「……というと?」
「剣が真の力を得るチャンスだということだよ。それは誰にも分かっていない。分かっていたら、そもそも近づけることなどしないはずだからね」
「剣と、所有者たる格を持つ人間が居ることで自動的に剣の封印は解かれる、と……?」
「そうそう。人間のくせによく分かっているじゃあないか。つまりはそういうことだよ。この世界がどう傾こうとも僕の知ったことじゃあない。そもそも、帝国としてはあれを封印するに留めているのは、あれを破壊することが出来ないからだ。世界の管理者たるガラムドが何か力をかけているのは分かる。しかしそれを解除することは出来ない。所詮、僕たち眷属はガラムドより低い次元の存在だからね。そして、それよりも低い次元に君たち人間が存在しているわけだ」
「それならば……何故我々はそれを管理しなくてはならないのですか。破壊しなくとも、何処か永遠に消し去ることだって……。そうだ、宇宙に飛ばしてしまえば永遠にこの世界には戻ってこない! そういうことだって考えられたはずです」
「考えたさ。そして実際に実行された。でも、だめだった。結局、この世界にあれは必要だった。たとえどんな力を得ようともこの世界にはあの剣は必要だった。シルフェの剣、その完全体……オリジナルフォーズを完全に破壊できなかったのは、敵の魔術師が剣を六つに破壊し、プロテクトを行ったからだ。そしてそのプロテクトは、この二千年で、やっと解放される。まるで、来たるべき時を待っていたかのように」
「……陛下、何をおっしゃられているのか、さっぱり分からないのですが……」
「簡単なことだ」
立ち上がり、アンチョビの話は続く。
「この世界を生かすも滅ぼすも、あの剣次第だということだよ」
◇◇◇
一番最初に祠に到着したのは、誰だったか。
答えは、オール・アイだった。
「ついに祠に到着しましたか……。ロマ、準備は良いですね?」
「大丈夫よ。……ところでここには何があるのよ?」
「剣ですよ。そして、試練を司る古い人間が居ますが、そんなことはどうだっていい。力でねじ伏せるだけに過ぎません」
石の扉を開けると、そこにはミイラが眠っていた。
そしてミイラが抱え込むように剣が置かれていた。
「これが剣ね……」
「ええ、それよりも先に、この『ミイラ』を破壊します」
そして、オール・アイは右手を掲げる。
するとミイラはまるで砂上の楼閣の如く、さらさらと崩れ去っていった。
残された剣が、ごとり、と棺の中に落ちる。
「さあ、これで二つ目です。手に取って構いませんよ、ロマ」
そう言った矢先――剣がふわりと浮かび始める。
「?!」
ロマは驚いてその剣を取ろうとするが、
「いけません、ロマ。避けてください!」
オール・アイの忠告空しく、ロマはそのまま剣に切り裂かれてしまった。
そしてロマだった身体は水にその姿を変え、そこには小さな水たまりが出来ていた。
剣は祠を抜け出し、一直線にどこかへと向かっていった。
「……不味いですね、まさか剣が既に五本揃っているということですか……!」
流石のオール・アイもそこまでは想定出来なかったのだろう。
となると、向かった先は容易に想像出来る。
「あの剣を使われては成らない。使って貰っては困るのですよっ!」
そうしてオール・アイはロマのことを見ることも無く、そのまま走り去っていくのだった。