増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第32話①

「何故あいつらは、剣をそこまでしてほしがるんだ……?」
「はい?」
「いいや、お前達には言っていない。お前達は引き続きここの捜査を続けろ」
 そう言って、カラスミは地下トンネルの奥へと進んでいく。今は列車が通ることも無い、誰も通るはずが無いその通路を歩いて行く。
 それを見た警備隊の二人は、きょとんとした表情を浮かべていたが、彼女が遠ざかっていくのを見て、再び仕事に取りかかるのだった。
 カラスミは怒っていた。
 何故我が国の人間を犠牲にしてまで、その剣を狙っているのか。
 今回の事故が誰によるものか分からない。だが、剣の眠っている祠へ向かうにはこの地下トンネルが最適解であり、それはカラスミたちも把握していた。
「……だからこそ、彼奴らの行動が気になる。このまま行けば、まず確実に帝国とぶつかることになるだろう」
 では、どうすれば良いか?
 そこまで待機していれば良かった話だったのに、どうして表に出ることになったのか?
 その引き金となったのは、その鉄道事故と言えるだろう。列車爆発事故により多数の人間が亡くなった。そしてそれが祠に一番近い地下トンネルの入り口付近での事故となると、カラスミも動かなくてはならない。そういう結論に至ったわけだ。
「……彼奴らめ、世界をどうするつもりだ……?」
 それは、実際に聞いてみないと分からない。
 そして、それを突き止めなくてはならない。
 それが彼女の使命であり、軍と剣を任された彼女の仕事だった。

 ◇◇◇

「……それにしても、彼女に剣を任せて構わなかったのですか?」
 会議室。キャビアの隣に、一人の少年が座っていた。その少年はその場には似つかわしくない雰囲気を醸し出していたが、不思議と溶け込んでいた。
「うん! だって、一番『適性』があったのは彼女だったからね。けれど、一番の適性は残念ながら既にメアリー・ホープキンの手に落ちている。それは分かっているよね?」
「ええ。分かっておりますとも。……ですが、彼奴らに剣を手に入れられるのは時間の問題……」
「だから、それをどうにかするのが君たち軍の仕事でしょう? 僕の職業は?」
「……カトル帝国皇帝、アンチョビ・リーズガルド陛下にございます」
 そうそう、とアンチョビは言って、
「だから僕の言うことを素直に聞いて、彼らに盗まれる前に剣を手に入れる。そして、剣の使い手も手に入れる。それが君たちの一番の任務だって話は……キャビア将軍、あなたにしたはずだけれどなあ?」
「お、お仕置きですかっ」
 キャビアが慌てた表情を浮かべている。
 それをニヤニヤと見つめているアンチョビ。
「どうしようかなあ、取りあえず剣は今彼女が持ち合わせているんだよね。そんでもって、今はこの星にある祠に向かっている。けれど、今、祠には別の一派もきっと向かっているだろうね。となると、その祠には、持ち主は違うとはいえ、欠片が全て揃うということになる」