増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第31話②

 ぱちり。電気がはじける音がトンネル内に響き渡る。
 燃え尽きた後の列車を実況見分するのは、警備隊の仕事だ。
 しかしながら、今日は訳が違う。
 何故だかその実況見分に、帝国のカラスミ=ラハスティ将軍が同行するということになった訳だ。
「なあ、どうしてカラスミ将軍がいるんだ?」
「知るかよ、そんなことよりさっさと実況見分終わらせちまおうぜ。見た感じ、ただの爆弾によるものっぽいしよ」
「そこの警備隊、今の話、少し聞かせてくれないかな」
 警備隊の二人の会話を、カラスミは聞き逃さなかった。
 カラスミの言葉に二人は即座に敬礼し、丁寧に情報を提供する。
 下手に変なことを言ってしまうと、その場で斬首ものだ――あくまでも噂の範囲だが。
「……成程。ということは、水を使った爆弾ということだな?」
 一通り話を聞き終えたところで、彼女はそう結論づけた。
「いえ、正確には水を構成する分子によるものが原因でして……」
「?」
 カラスミは首を傾げ、
「私は難しい話が苦手なんだ。要するに、水が原因で作られた爆弾なのだろう? そんな爆弾を開発可能な施設は? この星に存在するのか?」
「い、いえ……。確かにこの分子は水を構成する分子によるものですが……、流石にそれによる爆弾を作ることが出来るか、と言われると……」
「無理なのだな」
「は、はいっ」
 カラスミは踵を返す。とどのつまり、この爆弾は進みすぎた科学……或いは魔術かもしれない、によって開発されたものである、と。
 と、なると、答えはただ一つ。
「これを生み出したのは、オール・アイの一派か、或いはアンダーピース……。いずれにせよ、我が国に被害を齎すなど絶対に許せん」
 今回の列車事故では、何人もの人間が亡くなっている。
 それについては原因究明が急がれるばかりだし、犯人も捕らえなくては成らなかった。
「いずれにせよ、奴らは我ら帝国にやってくるはずだ」
 ――理由は単純明快。剣の欠片を三つこちらが所有しているからだ。
 だが、その剣がどういう意味を成しているのかは明らかになっていない。『偉大なる戦い』によって使われた剣であるということは明らかになっているし、歴史の教科書にも載っている程の常識だが、しかしながら今になってそれを使う意味がさっぱり分からない。
 それを使うことで、世界を変えてしまう程の力を得てしまうからか?
 それとも、それを使わなくては成らない程の脅威が出現してしまうのか?
 結論は考えても出てこない。それに、幾ら考えたところでそれが正しいかどうかははっきり分からないし、分かるはずが無い。だったらさっさとどちらかを捕らえて吐かせれば良いだけの話だ。それがどうして今に成って必要になったのか、その理由を。