増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第31話②

 アントへのフライト中。
 ロマ・イルファとオール・アイは会話をしていた。
「次の満月はいつ?」
「次? ……ええと、確か三日後だったと記憶しているけれど」
「三日、ね。なら全然間に合う速度かしら」
「満月と何か関係性が?」
「シルフェの剣は月の力を使うと言われているわ。それに、魔力は満月に満ちている、とも言われているのよ。だから満月の日は一番剣と月が呼応しているタイミングと言ってもいいかしら。その意味が分かる?」
「……いいや、まったく分からないわね……。どういうことなの?」
「シルフェの剣は特殊な魔力を込められている。それが月と呼応するということ。月がアースやその他惑星に隠れてしまうと、その力は減少してしまう」
「じゃあ、満月のタイミングに行くのがベストなの?」
「まあ、そういうことになるわね」
「ふうん、成程ね。面白いことをよくまあ知っているわね。……私なんて、魔力の塊ではあるものの、そんなことまったく知らないのに」
「魔力の塊……そうね、あなたはそういう存在だったわね」
「メタモルフォーズと人間のハーフ……よくも人間は考えたものだと思うわよ」
「……恨んでいるかしら?」
「何を?」
「作られた命を、作られた人生を」
「……いいえ。今は、お兄様を救うために動いている。それはあまり考えないようにしているわ」
「じゃあ、やっぱり」
「でも、もし今度お兄様と私を使うようなら、たとえ創造主でも殺す」
「……、あなたたちもう自由よ、はっきり言って。問題はあなたが『お兄様』を助けたいために彼らをつきまとわせているだけ」
「問題でも? 私のことを『モノ』と扱った代償と思えば軽いものでしょ?」
「それも、そうなのかもしれないけれど」
『間もなく本機体は、アント国際空港に着陸します。……しかし、このまま進むと管制塔の指示を受けることになりますが、如何なさいますか』
 彼女たちの会話を切るように、コックピットに居るライラックの言葉が聞こえてくる。
 無論、会話は一方通行となっているので、ロマとオール・アイの会話が聞こえることは無い。
「……問題ない、とは言いがたいわね。上手く空港から離れることは出来る?」
 近くにあるマイクの電源をオンにして、オール・アイは言った。
『離れることは、出来なくは無いですね。けれど、何だか軍の戦闘機がたくさん飛び交っているような気がするんですよ。今のところ怪しまれていないようですけれど』
「……軍の戦闘機ですって? まさか、カトル帝国の連中、既に剣を集め終えたとでも……?」
「だとしたら、都合が良いじゃあない」
 オール・アイの独り言をロマが拾い上げる。
「今こちらに一本、メアリーが一本、帝国が三本持っている状態なら、ここで戦闘を始めてすべて奪い取ってしまえば良い。あとは『祭壇』へそれを持って行けば……」
 ロマの言葉を聞いて、オール・アイは何度も、何度も、頷いていた。
「うん……うん! 確かに、そうですね! それならばなんとかなりそうです!」
「じゃあ、それで行きましょうか」
 ロマは小さく笑みを浮かべた。
 決戦の時は、三日後。