英雄譚なんて、僕には似合わない。第30話③
「彼女の名前……ライトニングじゃあないのよ、正確には、ね。ライトニングは、私が適当につけた名前。彼女は、かつての旧文明からこの時代を観測し続けて、そして今は私とともに行動をしているというだけに過ぎない。その名前は、キガクレノミコト。かつては『日本』という国で神の一柱を演じていたらしいが、今はその神の地位を捨て『眷属』にしたらしいけれど、ただまあ、眷属がどうのこうの、あなたにはあまり関係の無いことかしら?」
「いや……何というか、情報量が入りきらないというか……」
「人間というのは、弱っちい生き物なの」
「弱っちい……は余計過ぎないか? いや、まあ、何というか……凄いのは分かったんだけど……」
「キガクレノミコトはもう古い名前だから、あまり気にしないほうが良いの。今の私はライトニングという名前、それだけで良いの。……良いの?」
「なんでそこで再確認するのかしら、ライトニング? 別にあなたが良いと思えばそれで良いんじゃあない? だめならばだめで良いけれど、そしたら名前を元に戻せば良い。名前なんてものはあなたがあなたであることを決める数少ないピースの一つなのだから」
「……それじゃあ、ライトニングで良いの。今の私はそれが似合っているの」
ライトニングはこくこくと頷く。
「……それならそれで良いわね。あなたがそう思っているなら、それで生きていくべきよ」
メアリーはライトニングの頭を撫でながら、そう言った。
ライトニングはそれが気持ちいいのか、笑みを浮かべながら、そちらを見つめていた。
「……さて、それじゃあ、作戦会議の仕切り直しと行くかしらね」
そして、メアリーたちは作戦会議を(漸く)再開するに至るのだった。