増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第30話①

 アント。
 機械文明になっているその場所は、カトル帝国の主要都市となっている。
 そして、アントにはカトル帝国の第一基地があり、そこには軍事の中心があると言われている。
 第八会議室。
カラスミ将軍。君は剣を手に入れているという話は、本当かね?」
 目の前に座っている男とは、腐れ縁の仲だ。しかしながら、そこまで仲良くなく、寧ろ悪い方に入ると言ってもいい。
 キャビア=レークサイト。
 第一基地を管轄する将軍であり、彼はこのアントにある祠を管理している人間だ。
 そして、カトル軍のリーダーでもある彼は、各基地の将軍の上に立つ存在でもある。
 そんな人間に、嘘を吐いて上手く誤魔化すことは、そう簡単な話では無い。
 諦めた彼女は、深く溜息を吐いた後、答えをはっきりと告げることとした。
「……ええ。あなたの言うとおりですよ、私は剣を既に三つ手に入れています。しかしながら、カトルとトロワについては剣を手に入れていない……。それどころか、トロワに至っては星が消滅したという報告も上がっている」
「それは、君が『見逃した』という一味によるものでは無いのかね?」
「さあ、どうでしょう? それは聞いてみないとなんとも言えませんが」
「……聞いてみないと、なんとも言えない……ね」
 キャビアはそう言うと、伸びていた顎髭に触りつつも、
「しかしまあ、随分と嘗められたものではないかね、このカトル帝国が? アースの一組織に。アースはもう人間が滅びてもおかしくない、いつ人間の住める環境が狭まってもおかしくない状態にあるというのに、我々がアースに目を向ける必要は無い、と言われている。まあ、皇帝陛下が『母星への帰還』を命じているから致し方ない事ではあると思うがね」
「皇帝陛下を卑下しているのか?」
「まさか、そんなことをするはずがない。君と私の仲だろう?」
「そんな仲になった覚えは無い。これっぽっちもな」
「冷たいなあ、カラスミくん。……で、どうするつもりかね? 彼らは次にやってくるとしたら、このアントでは無いかね?」
「彼らがどれほど力を身につけたか、というところでしょうか。剣の力を身につけて未だ日が浅い。剣に振り回されるか、剣を使いこなすか。それについては、実際に剣を交えてみないとなんとも言えないこと」
 剣を構えるカラスミを見て、深い溜息を吐くキャビア
「……何というか、相変わらず、戦闘狂と言ったところか。そろそろ男とくっつくつもりは無いのか」
「私が、か?」
「そうだ。お前が、だ」