増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第29話①

 村長が手に取っていた剣を手に取ると、それを見てにやりと笑みを浮かべる。
「ついに、手に入れたわ。剣の『欠片』を」
 そうして、空間に円を描くと、そこに穴が生み出された。
 そこに剣を放り込むと、再び円を描く。すると穴は閉じ、そこには何も無くなった。
「……あとは、それを知る人間を全て殺すだけ、ね」
 ポケットから銀時計を取り出して、時間を確認する。
「あと一時間、余裕はあるわね」
「村長っ!」
 そのとき、声が聞こえた。
 開いていた祠の入り口を見ると、親衛隊の一人――ピローがそこに立っていたのだ。
「き、貴様! 村長に何をしたっ」
「何って、殺しただけよ。あなただって人が……いいえ、リザードマンが死ぬ瞬間なんて見たことがあるでしょう? 見たところ兵士のようだし」
「貴様ああああああああああああああああっ!!!!」
「……しかし、兵士に必要なのは力だけじゃあ無い」
 オール・アイが彼に手をかざす。すると、そこから鋭い針が無数に生み出され、彼の身体を貫いた。
「あがああああああああああああっ!!!!」
「余裕も必要なのよ、正面から突撃するなんて無謀もいいところ。……それぐらい分かっておきなさい、兵士ならばね」
 そして、オール・アイは血まみれになった祠を後にする。
「さあ、後は」

 ――その事実を知るリザードマンを皆殺しにするだけ。

 ◇◇◇

 それからは、早かった。
 村長の家に居る学者は全員殺害し、親衛隊も息の根を止めた。
 残りの住んでいる人間は殺害こそしなかったが、禍根を残さないために、ある手段を用いた。
「……ええと、先ずはこの星のマグマの流れをうまくコントロールして……」
 北東の小島に着陸する宇宙船を見上げながら、オール・アイは何かをしていた。
「オール・アイ? もう終わったのかしら」
「ええ、もう終わりましたよ。剣は後で出しても良いかしら」
「構わないわ」
 外に出てきたロマ・イルファとの会話をしつつ、何かを作っているオール・アイ。
「オール・アイ……いったい何を作っているのかしら?」
「斥力爆弾、とでも言えば良いでしょうか。簡単に言えば、電子と電子が突っぱね合う力を利用して、そのエネルギーを爆発に変える。簡単なものですが、設計図が無いと流石の私も作るのには時間がかかりますね……」
「ここに居る人間を、皆殺しにするということ?」
「人間というより、リザードマンと言えば良いでしょう。彼らには人権はありません。それに、剣を持って行かれたことを知られては困ります。帝国の領土ではないから、消すのは簡単です」
「だめよ、それは!」
「あなたが言っても無駄です。これはもう実現されたこと。……よし、これで完璧です」
 そうして、穴から何から落ちてきた。
 それは小さな球体だった。球体に時計がつけられたそれは、十五分のタイマーを指していた。
「……あとはこのスイッチを押すだけです。ライラック!」
『はい?』
 突然声をかけられたライラックはスピーカーを通して、オール・アイの言葉に答える。
「今から十五分後にこの惑星を爆破させます。良いですね、大急ぎで出発する準備をしなさい!」
『それならいつでも出来ますよ! エネルギーも充填完了済です!』
 オール・アイは頷くと、スイッチを躊躇いなく押した。
「さあ。急いで逃げましょう。もうこの星に未練はありません」
 オール・アイはロマを押し込むようにロケットに入る。
 そしてロケットは五分後には完全にトロワを離れていくのだった。