英雄譚なんて、僕には似合わない。第28話②
「……私は、長く生きすぎたのだろうか。そうは思っていなかった。だが、私は、こうも長くリザードマンとして生を受けるつもりは無かった。友人がどんどん居なくなり、後は私だけ? そんな世界には長く生きたくなかった」
「……村長、落ち着いてください。今、あなたが落ち着かねば誰が指揮官として役目を果たそうというのですか」
「もう少しだけ、話をさせてくれないか」
バルダルスは、それ以上何も言えなかった。
村長は名残惜しそうに、話を締めくくる。
「若人よ。今起きていることを何とか乗り越えて……それでも何度か様々な難題に直面するかもしれない。そのときは、どうか諦めずに今回のように力を合わせて欲しい。……ああ、言い直そう。別にリルーたちに向けて言っている訳じゃあない。今、ここに居るリザードマン、全員が対象だ。そうでなくては、何も始まらない。一人で出来ることなど、限られている。意味が分かるかね? 複数人なら、解ける問題もあるということだ。だから、絶対に諦めてはいけない。そのときこそ真価が問われるというものだ。その『友情』というものが、」
「はい。話はお終い」
唐突に、話題が中断する。
理由は彼の背後に立った、謎の生命体だった。
それは最初、リザードマンかそれ以外の存在か判別はつけられなかった。だから、どんな言語を話しているかもラムスたちには分からなかった。
言語を理解できたのは、学者のリザードマンだ。特にいち早く理解できたのは、リルーだった。
「アース語……、ということはアースの人間ですか……!」
リルーの言葉に、笑みを浮かべる。
それは、白と赤を基調とした布を重ねただけの単調な服に身を包んでいた。
黒い長帽子を被っていたそれは、やがてけたけたと笑い出す。
「ああ、良かった。私たちの言語を理解できるほどの知能があるようで……、本当に良かった」
「む、村長に何をする気だ!」
ピローは槍を構え、その白衣の存在に矛先を向ける。
溜息を吐いて、やがて一回転すると、
「……これで、あなたたちにも聞こえるかしら? 聞こえる、というよりは理解できる言葉で話せていると思うのだけれど」
流暢な言葉だった。
アースにはそれくらいにこの星の言語が伝わっているのか、と学者が興味を示してしまう程に。
しかし、それは――それを考えること自体が間違っていた。
「私の名前はオール・アイ。ちょいとこの星には野暮用でね。今落下してくると思う宇宙船に乗り込んでいたのだけれど、ちょいと暇になったものだから、先に乗り込むことにしたの。……野暮用、聞いて貰える?」
首を抑え付けられている状態にある村長は、何度も小刻みに頷いた。
それを見たオール・アイは笑みを浮かべると、
「そう言って貰えると助かるよ。楽に終わりそうだ。……私の望みはね、あるものを手に入れることなのよ」
「ある……もの、だと?」
「はい、茶々入れない」
どこからか生み出した氷のナイフを村長の首筋に突き立てる。
「村長っ!」
「はいっ、動いちゃだめだよ。動いたらその場でこのリザードマン……村長だっけ? の首を掻っ捌きますからねえ」
歌うように。
子供が歌を歌うように、そう続けた。
はっきり言って、狂っている。彼らはそう思ったことだろう。しかし忽然とやってきたその異星人に太刀打ちすることは愚か、触れることすら敵わないのは、彼らの科学力以前の問題であるということには、未だ気づいていない。