英雄譚なんて、僕には似合わない。第27話①
「しかし、そうなると、リルーの推測が正しいということになります! それだけは考えられません! あり得ないとしか言いようが……」
「しかし、現にこういう意見が出ていることは明らかだ。時間は。どれぐらいで落下する推測だ。……いや、それは既に聞いていたな、二時間だったか。こうもしちゃあいられん。一先ず小島には誰も向かわないようにしろ。そして、我々は厳戒態勢を敷く。その意味が分かるな?」
「……村民にはお伝えしないおつもりですか?」
「伝えないわけがあるか。今から私が話をする」
「村長が直接、ですか」
「そうだ。それ以外にどの方法があるというのだ」
村長は会議室の奥にある一室へと向かう。そこには放送設備があり、村の一周に設置されているスピーカーからその声を聞くことが出来る。
マイクロフォンのスイッチを入れ、声を発し始める。
「……これより、緊急の情報を報告する」
その言葉は、村の中へと響き渡っていく。
『今、空を見上げれば分かることだが、何かが落下してきている。それについて、不安を感じている人も多いことだろう』
外で待機しているラムスは、スピーカーを通してその言葉を聞いていた。
「結局、隠しきれない、と判断したわけ、か」
誰にも話すでも無い、その言葉は誰にも届くことも無い独り言だった。
『そして、それは北東の無人島へ落下する見通しが立っており、落下による衝撃も懸念されている。推測では未だ確立出来ていないが……恐らく、村にも衝撃が発生する可能性がある。なので、今から外出を禁止する。また無人島への移動も禁止とする。もし、現時点であの無人島へ向かっている存在を知っていたら、情報を提供して欲しい』
ぷつり、とスピーカーから音が聞こえ、放送が終了したのをラムスは感じた。
「……何というか、呆気ない説明だったな」
「おい、ラムス。何してるんだ?」
親衛隊の一人、ピローが声をかける。
「おう、ピロー。どうしたんだ、急に。君から声をかけるなんて珍しい」
「お前がここでぼうっとしているから気になったんだよ。……で、あの話聞いたか?」
「あの話? 今、村長が言っていたことのやつ? だったら知ってるよ、ちょいと野暮用をしていたら運悪くというか運良くというか、その話を聞いてしまってね」
「そうか。だったら良いんだ」
隣に腰掛けるピロー。
「何というかさ、……俺、怖いんだよ」
「怖い?」
「急に何かやってくるという感覚だよ。分からないか? なんと言えば良いかな、そのやってくる感覚がまるで肌に虫がざわざわと動いているようなそんな感覚だよ。……とはいえ、俺たちリザードマンの肌は硬い鱗で覆われているから、そんな感覚もあまり感じられないといえば感じられないのだがな」
リザードマンは、背中を中心に堅い鱗に覆われている。
しかしながら、お腹や膝裏といった部分は鱗ではなく柔らかい肌で覆われていることから、決してその防護は完璧とは言いがたい。
だからこそ、兵士や親衛隊になったリザードマンは鎧を着けることを強制としている。そうしなければ心臓を狙われる可能性が非常に高いからだ。弱点を常に出しているのと等しい訳だから、それをわざわざ見せつける兵士など居るわけが無い。だから現に、親衛隊であるピローやラムスも鎧を着けているわけだが、
「……俺たちも、どうなるのかな。一度寮に返されるのかな?」
「可能性は高いと思うけれど、なんとも言えないよな。何せ、俺たちの目的は村長の警護だ。でも村長の家に武器を持ち込むことは緊急時を除いて禁じられている。それに今は重要な会議中だし。……案外、俺たちの命なんて軽く思われているかもしれないぜ」