増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第26話③

「現在、調査段階ゆえ、推測の域を出ませんが、あれは人工物であると考えられます」

 それを聞いた学者たちがざわつき始める。そんな推測など情報共有していない。彼らにとっては予想外の言葉だった。

 しかしながら、その反応は、勿論リルーには想定通りだった。

「……続け給え」

 村長だけが、平静を保って聞いていた。

「ありがとうございます」

 一息。

「……人工物の規模は定かではありません。しかし、ここ数年の天文学の記録によれば、このような大きな規模の落下物が出るとは、到底考えられないのです」

「成程、つまり君は過去の記録を参照した結果、『自然に落下する物体』では有り得ないということだな?」

「はい。あれはただの落下物ではありません。……ここから先は、私の予測ではありますが、あれには嫌な予感がします。歓迎するかどうかは別として、その人工物に乗る存在の命令を聞いておいた方が良い。そう感じられるのです」

「あれには何か乗っていると言いたいのか」

 しかし、それならば村長の聞いた啓示と予測は一致する。

 どのぐらいの規模によるかは置いて、その落下物が着水した程度で得られた影響など高が知れている。天を裂き、大地を砕く。その啓示には合致しないのだ。

 では、その啓示はどうやって実現されるのか。

 これは……村長は信じたくなかっただろうが、人工的なものではないか、と予測していた。大地を砕く程の莫大なエネルギーが発生するのではないか、彼はそう予測していたのだ。

 そして、それと同じ予測を、リルーも立てていた。

「……リルー、だったか」

 村長は重い口を開ける。

「はっ、はいっ。すいません、過ぎたことを言ってしまいましたかっ」

「いいや、そんなことは考えておらん。……寧ろその予測は私も考えていた」

「村長……様もですか?」

「そうだ」

 村長は頷く。

「私は……出来ることなら、君たちからその不安を払拭する材料を得たかった。だからこうして急いでやって来たという訳だが……、私と同じ予測を立てたのが一人でも居ると言うのならば、私の予測も、『机上の空論』ではないということだ」