増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第26話①

「……天を裂き、大地を砕く啓示だよ」

 やがて一言だけ、村長は告げた。

「それは……!」

「文字通りの意味じゃて。何せ、それを聞いたのはここに居る、ファランクス様だからのう」

「……ファランクス様がそのようなことを……?」

「嘘ではないだろう。だが、いつやってくるかも分からぬその災厄に、我々はどう立ち向かえば良いのか……、それが問題だ」

「では、どうなさるおつもりですか。それを公表されるとか……」

「公表したところで何も変わらん。……強いて言うならば、混乱だけを招くものだよ」

「では……このまま公表なさらないつもりですか。その啓示が、もし本当ならばっ」

「分かっている!」

 村長ははっきりと言い放った。

 しかしその語気からは凄味などは感じられない。

「分かっている……が、これ以上はどうしようもない! はっきり言ってしまえば、我々の負けだ。何もできやしない!」

「……しかし、それでは我らリザードマンに死を言っているのと同義です」

「それは……!」

 これ以上は議論の無駄だ。

 彼はそう思って、祠を出ようとする。

 しかし、それよりも先に村長の手が彼の手を捉えた。

「何をするつもりですかっ。このままでは、我らはただ黙って死を待つだけになるでは無いですかっ!」

「だが、知らなければ幸せのまま終焉を迎えられる! 知ってしまえば絶望に悲観したまま終焉を迎えてしまう! それだけは避けねばなるまい、それだけは避けなくてはならないのだ」

「あなたは……っ」

 思いきり力を込めて、村長の腕を振り解く。

 村長は悲観に暮れた表情を浮かべたまま、ただじっとラムスを見つめていた。

 彼は村長の親衛隊だ。力には自信がある。それが例え村長相手であったとしても、その村長を力で捩じ伏せることだって出来る。

 でも、彼はしたくなかった。それをしようとは思わなかった。それをするはずがなかった。村長に崇敬の念を抱いており、村長を尊敬しているからこそなることが出来る『親衛隊』という職業を蔑ろにすることなど、彼には出来なかったのだ。

「……僕は、いや、私はこの事実を村のみんなに伝えます」

「伝えて、どうするつもりじゃ……」

「伝えて、それから、みんなで考えます。終焉を迎えない為にはどうすればいいのかを考えます」

「それで答えが出なければっ」

「その時は、その時でしょう。あなたみたいに既に諦めているわけではないっ。何処かに逃げ道を、答えを求めているのですから」