英雄譚なんて、僕には似合わない。第25話②
そんな封建的な村は、存続している。他者との交流を絶って、他者との影響を受けずに。
それは村長の命令であり、人数が減少の一途を辿るリザードマンの決断でもあった。ここで仮に人間を出迎えたら、彼らの血がさらに薄まる可能性がある。村長はそう考えていたのだ。
「しかし、このままでは……」
このままでは、リザードマンが滅びる。
トロワという惑星に知的生命体が全く住み着かない惑星と化してしまう。
きっと、それは村長も把握している事態のはずだ。しかし、村長が何か命令を出さないと、動くことが出来ないのがこの村のリザードマンである。
リザードマンは上下社会であり、その上下の繋がりがとても強い。だからこそ、こういうものが成立出来ているとでも言えば良いのだろう。
「しかし、このままでは……」
彼は考える。
村長はきっと、何も考えていない、と。
だから村長に従うべきでは無い、そう考えていた。
勿論そんなことを言える心意気が無い。それに彼は村長の警備に当たっている。
言ってしまえば、いつでも村長の寝首を掻くことが出来る。
村長はいったい何を考えているのだろうか?
村長はいったい、何をすれば良いと思っているのだろうか?
彼は考える。しかしそれは村長にしか分からないことだ。彼がいくら考えようったって、それが分かる訳では無い。その思考はリザードマンそれぞれにある思考なのだから。
ふと、彼が村長の家に目をやると、村長が裏口から外に出る様子を目撃した。
村長は何か様子がおかしかった。きょろきょろあたりを見渡して、まるで何かに怯えているような、そんな感覚だった。
(……気になるな)
単なる興味のつもりだった。
ただ興味が湧いただけだった。
そこで気づかないふりをしていれば――よかったものを、彼はそれについていってしまった。
村長に気づかれないように、一定の距離を保ちつつ、姿を隠して進んでいく。
そして村長が到着した場所は――村の奥にある石造りの祠だった。そこは普段立ち入りを禁じられており、それは村のリザードマンの共通認識だった。
しかし、村長は、その扉をゆっくりと開けていったのだ。
「あそこが開くなんて、見たことが無い」
気づけば、彼はそんなことを呟いてしまっていた。
はっと気づいた頃にはもう口から言葉が出てしまっていた。
慌てて手で覆うがもう遅い。しかし声のトーンが小さかったからか、村長にまで届くことは無かった。
「……いったい、あの中には何があるんだ……?」
彼はさらについていくことにした。
祠の中を覗き込むと、村長が棺に向かって頭を下げ、両手を合わせていた。
それはまるで祈りのポーズにも似た何かだった。
そして何か呟いているようだったが、流石にそこまでは聞こえない。
「……もう少し近づけば聞こえるかもしれないが……流石に近づきすぎる。もうこれ以上は分かりそうに無いな」
そう思って、元の場所へ戻ろうとした――そのとき、
「ラムス。見ておったのだろう」
村長の冷たい声が聞こえた。