増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第25話①

 

 

第四章

 

 

 トロワに浮かぶ唯一の島、リバルサード。
 そこは外部からの人間を拒み、竜人――リザードマンが蔓延っており、独自の文化を形成していた。
 そして、リザードマンにとって兵士は男子の憧れの職業であり、村長を守るという任務において命を賭してでも実行するという志の高い民族だった。
 リザードマンの兵士、ラムスもその一人であり、今日も鍛錬に励んでいた。
 目的はいつどんな時であっても村長を守り抜くため。
 最悪、自分と賊が差し違えても構わない。そういった『覚悟』をもって彼らは生きているのだ。
「よっ、ラムス。今日も精が出るな」
 そんな彼に声をかけるのは、ラムスの幼なじみであるリルーだった。
 リルーは兵士ではなく、学者だった。彼はこの世界の歴史のすべてを編纂する仕事に携わっており、彼は毎日のように深夜まで仕事をしている。彼曰く、これは天職だと言っているが、彼の身体の様子を心配するリザードマンも少なくない。
「よう、リルー。今日もこれから仕事か?」
「ああ、どれくらいやっても終わることの無い仕事だ。やりがいのある仕事だよ。場所と時間と仕事は提供してくれる。仕事をしていれば、司書付のリザードマンが食事を持ってきてくれる。こんなに素晴らしいことは無い。そうだろう?」
「そうかねえ、俺は生憎頭が良いわけじゃあないからな。……お前みたいに、本と一生向き合う仕事なんてやっていたら、一日も持たずに気が狂っちまうだろうな」
「そりゃあ、言えてる」
 リルーは失笑しつつ、時計を見る。
「おっと、そろそろ行かないと。仮眠の時間を終わらせているのに、こんなところで時間を潰しているとばれてしまっては怒られてしまう。君も鍛錬頑張ってくれ」
 そうしてそそくさとリルーは去って行った。
「相変わらず、だな……」
 槍で肩をぽんぽんと叩きながら、彼は嘯く。
「……あれ? リルー、もうどっか行っちゃった?」
 それを聞いて、ラムスは答える。
「ああ。もう仮眠の時間が終わったんだと。……って、その声はサリアか。どうした?」
 サリア。
 リルーとラムスの幼なじみである彼女は、村長のお世話をしていた。
 代々、リザードマンの雌は一定の年齢になるまで村長のお世話をするということになっており、彼女もそれに従っている次第だ。そして、その一定の年齢というのが――お見合いの出来るようになり、さらに生殖機能がきちんと整った十八歳である。
 リルーとラムス、それにサリアは十七歳。年齢で言えばそろそろ大人の類いに入る。
 そんな彼らは、ある葛藤を抱いていた。
 リルーもラムスも――サリアに恋心を抱いていた、ということだ。
 サリアは当然それを知るよしも無い。そしてサリアもまた誰かを好き好んでいることは知っている。
 しかし、お見合いはそう希望を通してくれやしない。村長が相手同士を決定し、それに逆らうことは、一族の死を意味している。