英雄譚なんて、僕には似合わない。第24話②
「次はどこへ向かうべきかしらね」
空港に着いたメアリーたちは、想像以上にスルーされていた。
意外にも彼女たちはもう少し影響があったのではないか、と思われていたが、
「そこはあの将軍に感謝するしか無いかもしれないわね……。あの将軍、もしかしたら剣の力を集めさせたいのかもしれない」
「剣の力を?」
「剣の力を集めた人間は、どんな願いだって叶えることが出来る。噂程度の話だけれど……信じるのもいいとは思わない?」
「ですが、それは本当に」
「真実よ。十中八九、真実だから」
「……誰が、それを言ったんですか?」
「かつて、私が歴史書を見たとき、リュージュの書いた日記を見たのよ。……その頃から、オール・アイという眷属は世界に居たということは知っている。そして、オール・アイが『祈祷師』として存在していた、ということもね」
「それって、つまり……」
リニックの問いに、頷くメアリー。
「ええ。つまり、そういうことよ。リュージュは二人居た。一人は本物のリュージュ・ホープキン、そしてもう一人が『眷属』たる存在。リュージュは眷属のオール・アイに操られていただけに過ぎない。この世界を守るためにも……オール・アイが何を考えているかは知らないけれど、その野望を止めなくてはならないのよ。それは世界の為にもなる」
「眷属ってことは、ライトニングと一緒ですよね? ライトニングにどうにかしてもらえないんですか?」
「出来るなら苦労しないの」
こくこくと頷いて、
「それに、世界に眷属を存在させるということ、それがどれほど世界に無茶をさせているか分からないの? まあ、人間には分からないことかもしれないけれど、この世界に無茶をさせすぎて崩壊してもらっても困るの。だから、その為に無理矢理に眷属が介入してその崩壊を食い止めている、ということなの」
意外とお喋りなんだな、とリニックは思いながらも、徐々にその事実をかみ砕いていく。
「……でも、それだったらオール・アイを追いかけた方が良いんじゃあ?」
「オール・アイも剣を狙っているでしょうね。そして、帝国も剣を狙っているはず。ねえ、リスト。あなたはどうする?」
リストに尋ねるメアリー。
「どうする……って」
「あなたはカトルにお父さんを探しに来たのでしょう? ここであなたはさよならするか、私たちと旅を続けるか。それはあなたに任せるわ。どうする? 一緒に来る?」
「僕は……ここでお父さんを探します。探させてください」
それを聞いたメアリーは頷く。
「そ。なら、それが一番ね。人生は一度きりなんだから、後悔しないようにね」
そうして、メアリーたちは空港のコンコースを歩き始める。
一人、取り残されたリストはずっと彼女たちを眺めていたが、
「あのっ!!」
コンコースの空気が冷えたような感覚だった。時間が止まってしまったような、そんな感覚にも陥っていた。
リストがメアリーたちに向けて大声を上げていた。
メアリーが代表して踵を返す。
「……何?」
「ほんとうに、ありがとうございました!!」
「……ええ、ありがとう。私たちがここまで来られたのも、あなたのおかげよ」
そして、再び時間が動き始める。
雑踏にメアリーたちは消えていくのを見送って、リストもまた去って行くのだった。
これが彼らの最後の別れ――にはならず、またどこかで会うことになる。
それがいつになるかは、未だ彼らが知るよしもない。