増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第24話①

 基地から脱出し、全員状態を確認する。
「……それにしても、ラグナロクにあの『眷属』が居るのは想定外なの」
 ライトニングの言葉に、メアリーは首を傾げる。
「どうして?」
「あの眷属は『全能の目(オール・アイ)』。全てのことを見ることが出来る、眷属。見通すことの出来る眷属。その眷属と出会うと、運命が決まってしまう。そう言われているレベルなの」
「……オール・アイ。そんな眷属とどうやって契約出来たというの……」
「眷属は気まぐれなの。だから、もしかしたら偶然契約出来た可能性だってあるの。裏を返せば……」
「……もしかしたら、ロマから興味を奪えば彼女を味方にすることも出来る……?」
「……可能性はあるの」
「可能性、ね」
 メアリーはゆっくりと歩き始める。
「しかし、眷属の中でコミュニケーションとか取らないわけ? あなたの住んでいた世界……ええと、確か名前は」
「天界のことは、聞かない方が身の為なの。ただ言っておくと、あなたの世界から一つ次元を上げた世界と言えば良いの。神や、それ以外の存在が住む平和な世界。起源も終焉も誰も分からない、そのある種の終わりに近い場所。その場所に向かうことが出来るのは、僅かな存在なの」
「フルはそこに……」
「あくまでも、可能性の一つなの」
「可能性、かあ」
 メアリーは悔しそうな表情を浮かべる。
「でも、それが分かればそれでいいや。……さ、行きましょう。次の星へ。次の剣を手に入れるために」
 そして、彼らは旅を続ける。
 平和のためか、一人の人間のためか、終わりはまだ見えてこない。

 ◇◇◇

 ロマ・イルファとオール・アイは宇宙船に戻って、会話をしていた。
「次は如何なさいますか、ロマ」
「あなたの見解を聞かせて貰いたいわね、オール・アイ」
「私としては……次に向かうべきはトロワでしょうか。アント、トゥーラ、サンクとありますが……一番剣の反応が強いのはそこですね。放置されてしまっているのでしょうか、帝国もあまり気にしていない様子です」
「トロワ……大地の大半が海に沈む星だと聞いたことがあるけれど?」
「ええ。ですから少数民族が住んでいるだけ。未開の惑星です。帝国も手出しが出来ないのは、伝説の木を祭っている民族がいるからだとか」
 歌うようにオール・アイは言う。
 そしてオール・アイの言葉に首を傾げるロマは言った。
「伝説の木?」
「黄金に輝く木の実……あなたも知っているでしょう? この次元に必要の無い、上位世界からの落とし物、『知恵の木』があのトロワにもあると言われているのですよ。そして、彼らはその知恵の木を守っている。どうです、気になりませんか」
「気になるわね、とても」
 そして、二人の会話は終了する。
 次の目的地は、トロワ。