英雄譚なんて、僕には似合わない。第22話②
「……とにかく、一つ聞いておきたいんですけれど、『封印』って何ですか?」
「言っていなかったっけ? 要するに、偉大なる戦いで星が五つに分かれたでしょう? それと同じように人間と、メタモルフォーズも、五つに分かれたのよ。けれど、アースを含めた五つの惑星は運が良いことに剣をもって封印となった。それが、封印」
「つまり……メタモルフォーズが目覚めるってことですか!?」
メタモルフォーズ。
今の時代からしてみれば、アースの大半を占める赤い海に蔓延っている存在であり、人類の永遠の敵であると認識されている。
その存在と、戦う日がやってくるなんて夢にも思っていなかった彼は、身震いした。
正確には、武者震いか。いずれにせよ、震えが止まらなかった。
そこに、レイニーが手を取った。
彼の手を、レイニーの手が触れた。
「……レイニー」
「震えてる。しっかりなさい、あんたは英雄なんだから。英雄と呼ばれる存在なんだから。だからあんたがしっかりしないと、この作戦は上手くいかないの。オーケイ?」
「……オーケイ」
「よっし! それくらい理解してくれればあとは問題なし! 夜まで待機して、基地へ侵入するぞっ! 準備は良いかな?」
「オーケイ」
「オーケー」
「オーケイなの」
「よっしゃあ! じゃあ、休憩するわよっ」
どこからか取り出した人数分の寝袋とテントを持って言うメアリー。
「……どこから持ってきたんですか、なんて話は野暮ですよね」
「ええ。分かってくれて良かった。これは、ライトニングがつなげられる異世界に置いてあるの。流石でしょう? 眷属の力をこう使うのはどうかと思うけれど……。ま、彼女も了承して貰えているし、問題ないと思うわ」
「問題ないの。その代わりのものも貰っているし」
「代わりのもの?」
「さあ! 眠りましょう……なんて言っても簡単に眠れないわよね。ここで一つ、英雄譚を語って上げましょうか。昔々の物語を」
「聞き飽きましたよ、百年前の物語なんて」
「そんなこと言わないの。じゃあ、話し始める前にテントをちゃっちゃと組み立てましょう!」
そして、彼女たちはテントの組み立てに取りかかる。
本当にこんな気分で良いのだろうか――なんてことをリニックは考えながらも、彼女たちに流されてしまうのだった。
◇◇◇
そして、その様子を眺めていたのは、カラスミ=ラハスティだった。
カラスミが持っていた双眼鏡を、兵士に渡す。
「……どうですか?」
兵士の問いに、頷くカラスミ。
「恐らく、彼らが言っていた『密航者』に間違いなさそうね。……ま、放っておきましょう」
「……え? 今、なんと?」
兵士は、耳を疑っていた。
カラスミが言うはずの言葉と別の言葉を聞いたからだ。
カラスミは深い溜息を吐き、踵を返す。
「だから、言ったでしょう。放っておきましょう。どうせ、あいつらは必ず基地に入って『剣』を手に入れる。だから、待ち構えてやりましょう。……良いわね? 絶対に手を出しちゃいけないからね?」
「わ、わかりました」
兵士は敬礼をして、カラスミに答える。
「宜しい。それじゃあ、私は休憩してくるから」
踵を返すと、カラスミは見晴台から去って行くのだった。