増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第21話②

 カトル帝国、マグーナ基地近郊の町、ラフィアス。
 その寂れたレストランにリニックたちはやってきていた。
「……先ずはここで情報収集といったところかしらね」
 メアリーは椅子に腰掛け、メニューを眺める。そのラインナップはどうも気に入らなかったらしく、苦々しい表情を浮かべながら他のメンバーにそれを手渡した。
「私、コーヒーでいいわ。あなたは?」
「僕もコーヒーでいいかな。食欲は……今はちょっと沸かないから」
「私もコーヒーで」
「あ、僕も」
 こくこく。ライトニングは頷く。どうやら彼女もコーヒーをご所望らしい。
「それじゃあ、店員さん、コーヒーを五つちょうだい」
 いつの間にか居た老齢の店員は頷くと、そのまま店の奥へと消えていった。
「何よ、ほんと無愛想ね。……客人をもっともてなしなさいよ」
 メアリーはそう吐き捨てるように言うと、少しだけ顔を近づけた。
「で。どうしましょうか、これから」
「ええっ。それを話し合うんじゃないんですか」
「そうよ? だからこういう場所を選んだんじゃない。お誂え向きの場所を、ね。本当は夜遅くにでも出るべきかな、と考えているけれど、どうかしら? 生憎、未だ私たちがここにやってきていることは知られていないようだしね」
「どうして分かったんですか?」
「手配書よ。あんだけの大騒動を巻き起こしたら、手配書の一つや二つ看板に掲げられていても可笑しくはないでしょう? それに軍とすれ違ったときも変な反応をされなかった。それはつまり、未だ軍に私たちのことが認知されていない、ということなのよ」
「そういうことなんですかねえ……」
 少しするとコーヒーがやってくる。それぞれの前に置かれると、一礼し店員は去って行った。
「……私が何か言ったからかしら? 何だか少しだけ丁寧になったような……」
「気のせいですよ、きっと。それで、基地はどういう状況になっているんですか」
 コーヒーを啜りながら、リニックは言う。
 熱いコーヒーだったが、味はひどいものだった。はっきり言って、薄い。コーヒーを水で薄めたようなそんな感覚だった。
 しかし顔には出さずに少しだけ飲んで、テーブルにそれを置く。
 待ってました、と言わんばかりにメアリーは地図を取り出すと、基地周辺の地図だけを見やすくするように折り畳んだ。
「今、私たちが居る場所がここね」
 ペンで指さす場所は、基地から少しだけ離れた町だった。
 そして、そこから基地のある場所までペンを移動させていく。
「ここまでの移動手段なのだけれど……。やっぱりさっきと同じように歩きになるかなあ、と思っているのよ。その方が隠れて入ることが出来るからね」
「ええっ、また歩くんですかあ……」
 直ぐにレイニーの疲れた口調の言葉が聞こえてくる。
「鍛えているんじゃないのか?」
「いつもそれを言いますけれど、歩くったって限度がありますよ、限度が」
「それは確かに彼女の言うとおり。歩くとしても限度がある。現に私たちは三キロメルの道のりを歩いてきたわけだから(注:一メル=一メートル)」
「じゃあ、何か手段が?」
「車をここで手配するわ。運が良いことに、レンタカーをしている店を見つけたのよ。それも一日金貨一枚。ちょっと高いけれど、致し方ない出費ね。これで基地の周辺まで向かい、そこからさらに調査を開始する」
 確かにそれなら体力を疲弊することもない。
 リニックはそう思うと、ゆっくりと頷いた。
「じゃあ、車で基地の周辺まで向かって、そこからは徒歩……ってことですね」
「ええ。そういうことになるわね。特に問題は?」
「やったあ。それなら問題なしです、総帥!」
 さっきと打って変わって、明るい表情を見せるレイニー。
 それを見たリニックは少しだけ微笑ましいと思ってしまうわけだが。
「……でまあ、問題なければ今直ぐにでも出発しようかな、と思っているのよね。何せ、距離がないとは言え、夜に出かけると町の人間から怪しまれる。それだけは避けておきたいのよ」
 それはその通りだった。
 剣を手に入れるまでは、出来ることなら派手な行動は起こしたくない。それはメアリーたちとリニックの共通認識だった。
 メアリーの話は続く。
「ま、そういうわけで今から車を手配しに向かうわよ、先ずはこのコーヒーを飲んでから、ね」
 そしてコーヒーを一口啜るメアリー。
 少しきょとんとした表情を見せるが、やがて苦々しい表情へと変わっていった。
「……不味いわね、このコーヒー」
 その言葉に、賛同しない者は誰一人として居なかった。