英雄譚なんて、僕には似合わない。第21話①
「!」
「私の存在がどういう存在かは知っているだろう、カラスミ=ラハスティ。メリア・シールダーとして、私はどう生きてきたか」
「偉大なる戦いにおいて、『盾』の戦績を誇る英霊だ。あなたは、たくさんの人々を救い、たくさんの人々を守った。そして、世界は五つに分割されたが、このカトルであなたは帝国の礎となる『帝国会議』の制定を行った。そこまでは、歴史の教科書でも学べるレベルの出来事かと記憶しているが」
「そう。帝国会議。そいつが問題だった。……平和となった世界に、果たして戦力は必要かね?」
「いいえ。必要ないでしょうね」
「その通りだよ。世界が平和になった以上、剣の存在意義はなくなった。だから、剣を管理している私は帝国会議から外され、権力を失った。そして辺境の地で剣を管理することとなったわけだ。……それが、異形を封じる力であると言うことも知らずに」
「そして、それがこれ、ということか」
ミイラの向こうには、巨大な頭があった。
それは人間の身体が浮かび上がっていて、異形と表現するほかなかった。
ミイラの話は続く。
「そう。メタモルフォーズと呼ばれるこれは、人間の中ではとっくに滅んだモノだと思われていた。……ところが、人間はメタモルフォーズのことを忘れただけに過ぎなかった。メタモルフォーズはそんな簡単に滅びる訳がないのだよ。何せ、人間をウイルスとして認定している以上、それをエネルギーとしているのだから」
「ならば、進言すれば良かったはずではないのか。そうでなければまた違った未来が……」
「しなかった、と思っているのかね? カラスミ=ラハスティ。私が、そんな愚かな行為に逃げたと思っているのか?」
何も言えなかった。
何も言い出せなかった。
「……まあいい、君に言ったところで何も変わらない。それに、この剣は君に扱うことは出来ない。一応言っておこう。無理に引き剥がせばこいつが目を覚ますぞ。この剣はそのためにここに封印されているのだから」
「……ならば、私の悲願を叶えてくれるつもりは無いと言うことだな」
踵を返すカラスミ。
「何処へ?」
「決まっている。ここにやってくる英雄とやらを待ち構える。そいつが何者であるかを確かめる。私よりも弱いならば、そいつにくれてやる剣もまた弱い力なのだと、思うしかない」
「……人間とは、斯くも争いを求めるのだろうか。教えてはくれないかね?」
「さあね。遺伝子にでも刻まれているんじゃないか?」
そうして、祠の扉は閉ざされた。