増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第19話②

 メアリーがはっきりと言い放った。
「……ウイルス、ですか。それじゃあ、メタモルフォーズはこの星にも居るんですか?」
「ええ、居るわ。けれど、この国はメタモルフォーズを崇敬しているようね」
「崇敬、とは?」
「文字通りの意味よ。この世界を滅ぼすとして、人間をウイルス扱いしているメタモルフォーズを崇敬している。しかし、メタモルフォーズの力どういうものかということは、帝国も理解している。だから封印しているのよ。それも、剣の力によってね」
「剣は……それほどの力を持ち合わせているんですね……」
「そりゃあ、全て集めれば世界を救うことの出来る力を持ち合わせているんですもの。一振りだけならメタモルフォーズを封印することだって難しくないでしょう」
「でも、その話だと……」
「剣を私たちが手に入れた瞬間、メタモルフォーズが復活し、暴走する可能性だって……あり得ますよね?」
「そりゃあまあ、そうでしょうね。……でも、多くを救うためには多少の犠牲も必要なのよ」
「犠牲なく、人々を救うことは出来ないんですか」
 リニックの言葉に、メアリーは何も言えなかった。
 それをどう捉えたのか分からない。しかしリニックはさらに話を続ける。
「かつての英雄も、そうだったんですか。英雄は、人々を救えれば、そこに犠牲があったとしてもなかったことに出来るんですか。だったら、僕はそんな英雄になんてなりたくない。皆を救ってこその英雄じゃないんですか」
「……、」
「そんな英雄には、僕はなりたくありません」
「リニック。あなたさっきから聞いていれば……!」
 レイニーの言葉を手で制したのはメアリーだった。
「総帥!」
「……いや、あなたの言う言葉の通りよ、リニック。確かに、たくさんの人間を救うために僅かな人間を殺して良いという考えは間違っているかもしれない。しかし、時にはその考えも必要であるということ、それも分かって欲しいのよ」
 しばし考え込んでいたリニックだったが、やがてゆっくりと頷く。
 そうして、作戦は開始される。
 目的地は、カトル帝国マグーナ基地。
 目的は、英雄の剣の奪還。

 

 

第二章 完