英雄譚なんて、僕には似合わない。第18話③
それを見たメアリーはきょとんとした様子で眺めている。
どうやら彼女が金属バットで殴打するのはいつものことらしく、
「……何というか、そこまで仲良くなれたのね!」
「ほええ?」
殴られてまともな思考が出来ていないリニックは、メアリーの言葉を聞いて首を傾げる。
「彼女が金属バットで殴打するということは、それなりに心を許したと言うことなのよね。だから、安心なさい。ま、確かに気になるかもしれないけれど」
「……いやいや、普通に考えて死にますよ?」
「死なないって事は、手加減しているってことよ?」
「……あ」
確かに、言われてみればその通りだ。
けれど、痛いことには変わりないし、それはどうかと思うけれど。
リニックはそんなことを思いながら、叩かれたところを撫でる。
撫でるとぷっくりと膨らんでいた。たんこぶになっているじゃないか、という突っ込みは野暮だと思ったのだろう。リニックは何も考えずにライトニングを睨み付ける。
「……もう一度殴られたいの?」
ぶんぶん!! 首を何度も横に振って、積極的に否定する。
ライトニングは残念そうな表情をして、
「そうなの。なら、仕方がないの」
金属バットをどこかに仕舞った。
「……ところで、どうでしたか? 町の様子は」
「意外にも何も音沙汰なかったわね。あんなに巨大なものが落ちたのに、誰もこちらには向かってきていないでしょう? どうやら、帝国の人間は生きるのに精一杯でそういうことには目を向けていないようなのよね」
「帝国?」
「カトル帝国のことですね」
リニックの質問にリストが補足する。
「リスト。君も町へ向かったのかい?」
「ええ。出来れば父さんの居る場所のヒントでもあれば……なんて思ったのですが、そこまで運は良くなかったですね」
「そうか。それは、残念だったな」
リニックは、リストの頭を撫でる。
「……何故、撫でるんですか」
「いや、ちょっとな……。気を落とすことはないよ、きっといつか見つかるさ」
「そうですね……。そう思っていますよ」
リストは少しだけ元気を取り戻したように見える。
それを見てリニックはほっとする。
「で。問題は、『剣』なんだけれど」
メアリーが話を本題に移す。
「剣、ですか」
「そう。シールダーの試練とも言えるそれは、どうやら先に帝国が目をつけているようなのよね。そこを中心とした基地を組み立てているようなのよ」
メアリーは地図を広げ始める。
どうやら町で地図を入手したようで、それを見せようとしているらしい。
地図の中心には帝国の首都と町が広がっており、海は東側にある。
そして、西側にも海が見え、その海岸沿いにある灰色の建物を指さした。
「ということは、基地の中に剣が?」
「正確には剣を収めし祠が眠っている、とでも言えば良いかしら」
「……帝国もその力に気づいている、ということなの」
ライトニングは地図を見つめながら、そう言う。