英雄譚なんて、僕には似合わない。第18話②
「……確認したいのだけれど、リニック、あなたには緊張感というモノがないの? 今は敵から狙われている身だというのに」
それを聞いたリニックはうーん、と首を傾げつつ、
「でも、仕方ないですよね? どうやって逃げ出すかということは常に考えてはいますけれど……、でも、緊張というかあたふたというか、そんなことをしたところで何も始まらない。だったら、気持ちを落ち着かせて置いた方が良いと思うんですけれど」
「……それもそうなの。けれど、」
はっきり言って、流石に落ち着き度合いが人間のそれではない。
と、ライトニングは思う。
普通ならもっと驚いていて良いし、緊張していても良いし、騒いでいても良い。寧ろその可能性を考慮して様々な『手段』を考えてきていたし、行使する必要性もあるならば、それも致し方なし。
そう思っていた。
けれど、彼は既にそれを通り越していた。
リニックは既にそれを通り越して、考えていた。
「……何というか、英雄と呼ばれる理由も分かってきた気がするの」
「え? 何か言いました?」
「何も言っていないの。……それにしても、メアリーたち、遅いの」
「何かに巻き込まれているんじゃあ……」
「そんなことは無いと思うのだけれど……」
そのとき、リニックの視界に人影が見えた。
「待ってください、人影が……」
ライトニングはリニックを手で制する。
もし敵ならば、リニックは戦力として考えられない。つまり、彼女一人で戦わなくてはならない。
それを考えていくと、ライトニングは緊張をほぐしたくてもほぐしきれないのが実情だ。
「……誰だ!」
そうして、ライトニングは意を決して声をかける。
或いは威嚇のために大声を上げたと言ってもいいだろう。
「ライトニング、私よ。メアリーよ!」
返ってきた声を聞いてライトニングはほっと溜息を吐く。
そうして、やってきたのはメアリーとレイニーだった。
「その様子だと、何事もなかったようね。リニックも無事?」
「ええ。僕よりも、ライトニングのほうが緊張しているようにどぐしゃ」
急に言葉が変になったのは、彼が言葉を言い切る前にライトニングが金属バットで彼の頭を殴ったからである。勿論手加減をしないとただじゃあ済まないから手加減をした上での攻撃ではあるのだが。