英雄譚なんて、僕には似合わない。第16話③
サニーは冷静に物事を分析する。
しかし、事態はそんな簡単に収束してくれやしない。
「しかし、このまま何も出来ないのも何というか……むず痒い……!」
「仕方ないだろうが! あいつが、操縦士のあいつが、シートベルト着用の上待機しろ、というんだ。あいつに任せるしかない」
「サニーさんってそこんところ、ちゃんとしていますよね……」
レイニーの言葉に、リニックはサニーが一番古株であることを思い知らされる。
思えばこの組織、組織とは名乗っているものの、メアリーを含め四人しか居ない。サニーとレイニーと、ライトニングの三人だ。そのうちライトニングは眷属だのどうのこうの言っているので人ならざる者であることは明らかなのだが、こうなってくるとサニーも怪しい、というのがリニックの推測だった。
リニックは考えていた。自分はどうして勇者という存在なのか。いや、正確に言えば彼の存在は英雄と呼ばれているものなのだが、そんなものは彼の中では同一視されており、もはやどうでもいい存在となっている。
英雄譚。
それは百年前の勇者、フル・ヤタクミが成し遂げたことで、今の彼には関係ない。
勇者はそのまま行方不明となり、その血筋は絶えてしまっているのだから。
ならば、彼は勇者の末裔でも何でも無い。
彼は、ただの人間だ。
でも、彼は英雄であると、そう告げられた。
英雄だから、何だというのか。
英雄だから、何が出来るのか。
英雄だから、何も出来ないのか。
違う。違う。違う。そうではない。
英雄だから、英雄だからこそ、英雄であるからには。
(僕は――何をすれば良い?)
(僕は――何のためにここに居る?)
(僕は――ただの人数合わせなのか?)
否、否、否。断じて否。
そんなことはあり得ない。そんなことは考えられない。
大学を破壊され、平穏を破壊され、日常を破壊され。
得たモノは、英雄というちっぽけな称号だけ。
本当にそれで良いのか?
本当にそれで――自分は良いのか?
否。否。否。
否定することなら出来る。
肯定することは出来ない。
提案することも出来ない。
そこに意味はあるのか。
そこに意味は無いのか。
分からない。
(――分からない)
分かるのは、いつになったらだろうか。
分かるのは、いつになればだろうか。
わかり合えるのは、いつになったらなのか。
(分からないよ、そんなこと)
気づけば、彼は――白一色の世界に立っていた。