増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第16話②

 所変わって、宇宙。
 メアリーたちアンダーピースをのせた宇宙船は、カトルの軌道上へとさしかかっていた。
「あ、見てください。メアリーさん。星が見えますよ、星が」
「星というよりは惑星の欠片みたいなものね……。偉大なる戦いで私たちが元々住んでいた星が六つに分裂したんですもの。強いて言えば、小惑星に近いものと言えるかもね」
「でも、星は星で変わりないですよね」
「そりゃあ、そうだけれど……」
「それじゃあ、僕はそろそろ操縦を手動に切り替えるのでコックピットに向かいます。シートベルトを着用してくださいね。着陸態勢に入るので」
「着陸態勢……って言うけれど、私たちを歓迎してくれるとは到底思えないわよ」
「そりゃあ、分かっていますよ。何とかするしかありません。そう、何とかするしか、ね」
 そうウインクしてリストはコックピットへと戻っていく。
 残されたメアリーたちは取りあえずアースを出た時と同じ配置に座って、言われたとおりにシートベルトを着用することとした。もしシートベルトを着用しないと、思わぬ怪我に繋がるらしい。カトルの重力がどのくらいなのかはっきりとしていなかったメアリーたちにとってみれば、操縦士であるリストの指示は従っておくに超したことはない、ということなのだろう。
『まもなく、この船はカトルの大気圏に突入致します。シートベルトを締めてください』
「へえ、カトルにも大気圏があるのね」
「人間が住んでいるとなると、そりゃあ大気圏もあるでしょう。アースと比べて成分の構成が違う可能性は十分にあり得ますけれど」
 リニックの言葉にメアリーは応えなかった。
 余程先程の問答が応えたのか、或いは単に機嫌が悪いだけなのか。
「……リニックくん、ごめんね。総帥、ああ見えて子供っぽいところがあるから」
 後ろに座っていたレイニーが耳打ちする。未だ彼女はシートベルトを着用していないようだった。
「うん、大丈夫だよ。とにかく、君はシートベルトを着用したほうがいい。そうしないと、危険だって。さっきリストが言っていたし」
「そうね。ありがとう、リニック」
 そうして、レイニーもシートベルトを着用すると、機体が大きく揺れ始めた。
 最初は大気圏突入に伴う振動かと誰もが思っていたが、どうやら様子がおかしい。
 ガタガタと揺れ始めたそれは、徐々に警告音も聞こえてきた。
「おい! リスト、大丈夫か!」
 サニーの言葉は、コックピットに届くのではないか、という程の大声だった。
 おかげでその後ろに座っていたリニックは耳を塞いでしまう程だった。
『サニーさん、すいません! 今ちょっと厄介な敵に襲われていて……。何とか、大気圏突入を目指すつもりです!』
「おい、ちょっと待て。それっていったい……!」
『えーと、簡単に言えば、カトルの軍隊でしょうか?』
「軍隊……か。そりゃあ、まあ、客はお呼びじゃあねえだろうしな」