英雄譚なんて、僕には似合わない。第16話①
「確かに。……確かに、そうね、その通りだわ。あなたのおかげかもしれないけれど、だってあなたが居なかったらこの扉は……」
「どうかしましたか? 別に、この扉は『元々開いていたもの』ですよ?」
「え?」
「そうですよ?」
「そう……そうね。そうだったわ」
目線で、押し込まれたようなそんな感覚を味わった。
しかし、それ以上に『逆らってはいけないような』そんな感覚に陥る。
ロマはそれを不思議と思わず、そしてそれはオール・アイの術中に嵌まっているのと等しいことであった。
「……では、人間を連れてきましょう。男手がなければ何も始まらないでしょうし、このタイプの飛行機を操縦出来る人間が居るかどうかも確認せねばなりません」
「そうですね。そうしましょうか。……オール・アイはここで待っていて」
「承知しました」
そうして、ロマは人を見つけてくるべく、地上へと向かっていった。
◇◇◇
人手は簡単に集まった。何せ作戦を終えてきたばかりで疲労困憊の人間ばかりだったが、彼女の命令には誰も逆らうことは出来ない。それに、運が良いことに戦闘機――否、この場合は飛行機と統一するべきだろう――を操縦出来る人間も出てきた。
「あなた、本当に操縦出来るのよね? ……えーと」
「ライラックっす。ライラック・リーボルトです」
「ライラック。そう、ライラックね。覚えて置くわ。じゃあ、あなたをリーダーにして、この飛行機の整備チームを作り上げるから。後はあなたがなんとかしてちょうだい。いいわね? 何日かかるかは分からないけれど、必ずこれを飛ばせるようにしなさい。そして私たちを宇宙へ連れて行くのよ、ライラック」
「りょ、了解しましたっす!」
「さあ、あんたたちもぼやぼやしてないで! 急いで取りかかって!」
鶴の一声、とはこのことを言うのだろう。
あっという間に彼女の号令によって、整備チームが決められ、飛行機の整備へと取りかかっていった。
「あなたは……本当にリーダーシップが強い人間ですね」
「何よ、突然」
オール・アイがそんなことを言い出したので、てっきり彼女はオール・アイがからかってきたのかと思った。
しかし、オール・アイの話は続く。
「私は考えるのです。もし啓示を受けたとしても、その啓示のために行動出来る人間は一握りであるということを。だから、動くことが出来る人間というのは優秀であるということ、それははっきりしておきたい。そう、あなたもその一人なのですよ」
「……何だか、急に褒められると照れくさいわね」
「それでいいんですよ、それで」
オール・アイとロマは二人飛行機の整備の様子を眺めながら、そんな会話をする。
それは、そんな一幕の出来事だった。