英雄譚なんて、僕には似合わない。第15話②
彼女が見つけたのは、小さな扉だった。
「扉……ですか」
「そう。彼らが、ここにある科学技術を踏みにじるように全て持ち去ってしまったけれど、確か、ここの扉だけはどんな細工をしたのか知らないけれど、開かなかったって聞いたことがあるの」
「それは……誰に、ですか」
「リュージュ様よ、勿論」
リュージュは、表向きに言えば世界を滅ぼし、世界を我が物にしようとしていた人間であった。百年前にその野望は打ち砕かれ、今やその封印していた技術は世界のために使うべきということで、各国が合同で設立した『世界政府』が牛耳っている。
「世界政府には、勇者一行である、アドバリー家が参入していると聞いたことがあるわ。あいつら、結局勝者になりたかっただけなのよ。私たちから全てを奪い去りたかっただけなのよ。そして、奪い去った後は利権を意のままにする存在になった。結局は、リュージュ様と変わらないじゃない。勇者だって、行方不明だなんて言っているけれど、ほんとうはどこに消えたのかなんて誰も教えちゃあくれない。だからあんなに立派な墓を作っているけれど、勇者がどこに消えてしまったかを考えることなく人々は平穏を送っている。平穏な日々を、送っているのよ。このような犠牲に、見て見ぬふりをしながらね!」
「……だから、戦うと、そう決めたではありませんか。ロマ」
オール・アイは彼女の意見に賛同する。
それは、間違ってちゃいなかった。勘違ってちゃいなかった。
結局は、オール・アイの意志に、進みたい方向に、彼女の心を染め上げているだけに過ぎない。
けれど、それを誰も教えようとはしない。理解しようとはしない。わかり合おうとはしない。
結局の所、無駄ではない。
だが、しかしながら。
それが理想であるならば。
それが現実であるならば。
それを変えようと願うのは、可笑しいことなのだろうか?
それを思うのは、間違っているのだろうか?
たとえ操られているとしても、兄を救いたいという思いと、兄とともに過ごしたいという思いは――変わらない。変わらないだろうし、変わってはいない。それは彼女の意志であり、彼女の思考であり、彼女自身の判断だ。
だからこそ、なりふり構わず、今は前に突き進んでいる。
遠回りをしながら、それでも前に進んでいる。
「……開けますよ」
オール・アイはゆっくりと扉を開けていく。
今まで誰も開けることが出来なかったその扉を、オール・アイはゆっくりと開けていく。
そこに、理由は思いつかなかった。
そこに、価値は見いだせなかった。
ただ、オール・アイが居て、彼女がキーとなった扉があった。
ロマはそうとしか認識出来ていなかった。認識させられていた、という意味になってしまうのかもしれないが。