増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第15話①

 ロマはファイルをクリックして、中身を見ようとする。
 しかしながら、案の定そのファイルにもパスワードがかけられており、中身を見ることは敵わない。
「ねえ、オール・アイ、このパスワードを――」
 解いて欲しいの、という言葉が出る前に。
 オール・アイは彼女の額に手を当てていた。
「何を……」
「あなたは知るべきではない。知るべきではなかった、この世界の真実に」
 黒い靄が彼女の額から出てきて、それがオール・アイに吸い込まれていく。
「あ……あ……」
「まさか、ここでまた眷属の力を使うことになろうとは、思いもしませんでしたよ。……ま、あなたには知る必要もないことでしょうが」
「あ……がは……っ」
 白い泡が口の端から吹き始める。そこで漸く彼女は手を離した。
 同時にパソコンを思い切り地面にたたきつけ、そして基盤からパソコンは破壊された。「……あれ? 私、なんでここで……」
「何をしているのですか、ロマ。あなたは『ロケットを探しに来た』。ただそれだけの話ではありませんか。それ以上、何を求めるというのですか?」
「ロケットを……探しに……」
「そう。ロケットを探しに来たのです」
「そこにある……パソコンのようなものは、」
「これはただのジャンク品ですよ。あなたが気にすることではありません。さあ、探しに戻りましょう。急がないと、彼らが先に『剣』を手に入れてしまう。それだけは避けなくてはならない。そうでしょう?」
 それを聞いたロマはぱんぱん! と頬を叩き、
「そうね、ここで狼狽えるわけにはいかないわ。ありがとう、オール・アイ。あなたのおかげで、一瞬忘れかけていたようにも思えたようなことを、取り戻せた気がする」
「そうならば、それで構いませんよ」
 そうして、ロマは再び捜索を開始する。
 一人残されたオール・アイは、壊れたパソコンの基板を踏み潰しながら、呟く。
「まさか、電子データとして未だ残されているものがあるとは……。不味いですね、計画の修正は早々に行わなくてはなりません」
「オール・アイ! 何をしているのかしらー!」
 ロマの言葉に、笑みを浮かべるオール・アイ。
「何でも御座いませんよ、何か見つかりましたか? 今、そちらに向かいますね」
 そうして、何事もなかったかのように彼女はロマの居る場所へと向かうのだった。
 そう、気持ち悪いぐらいに何事もなかったかのように。