増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第14話②

 リュージュ
 かつてこの世界を統べた人間。或いは祈祷師とでも呼べば良いだろう。予言を神から賜ることで、その地位を確保し続けた人間であり、長命であったと言われている。
 その彼女もまた、ある野望を抱き、それに呪われていた人間だった。
 彼女の野望は百年前に砕かれ、リュージュそのものも息絶えた。彼女の異常な長命は、エネルギーをオリジナルフォーズという生命体から得ていただけに過ぎず、その根底を排除すればあっという間に人間として生きていくことが出来なくなる。だから、彼女は死んだ。
 死んだことにより、リュージュがスノーフォグの奥底に隠していた技術遺産が発掘された。それにより技術レベルは千年以上格段に上昇したと言われている。彼女が残していたのは旧時代の資料であり、一万年以上昔にかつて人類が生きていた時代のものであると言われている。
 その遺産はすべてメアリー・ホープキン率いる多国籍軍に撤収されたはずだが――。
「まさか、未だそれがあるというのですか?」
「あくまでも可能性の一つよ。無いかもしれないし、あるかもしれない。けれど、可能性の一つに縋るのも悪くないでしょう?」
 そう言ってロマはポケットに入れていたカードキーを取り出す。
 それはこの施設のすべての扉を開けることの出来るカードキー――いわゆるマスターキーだった。
「マスターキーを使えば、きっとどこかに何か隠されているはずだろうしね。じゃあ、向かってみましょうか、オール・アイ」
「わ、私も向かうのですか?」
「当然でしょう? あなたも行って貰わないと、幾ら予言官としての役目があるからとしても動かないと運動不足で直ぐに太ってしまうわよ。……ま、食糧不足のこの時代ですもの、そんなことは滅多にあり得ないことなのだけれど」
 そうして、オール・アイの手を取るとロマは駆け出していく。
 オール・アイは若干引っ張られる形になるが、そのまま彼女に従うこととした。