増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第13話③

「試練を与えし存在……ですか。本当にそんな存在が?」

「もともとシルフェの剣は、幾つかに分かれていたのよ。だからフルは……かつての『勇者』はそれを使いこなせなかった。当然よね、その頃はまだ宇宙に進出出来る力が無かった。オリジナルフォーズを斃すことの出来る力が無かった理由は、そこだった。二千年もの間、エネルギーを蓄積し続けて来たのに。その剣を、私たちは使う手段を知らなかった」

 まるで積もり積もった想いを吐露するかの如く、話し始めた。

「だから、百年前はあんなことを引き起こしてしまった! もしも誰かが一瞬でも、ほんの一瞬でも! 宇宙に目線を向けていたら何か変わったかもしれなかったのに!」

「総帥!」

 そこまで言ったところで、制止したのはサニーだった。

「過去を悔やんで何になる。未来への糧となるというのか? ならないだろう。後悔は意味をなさない。いや、それどころか前進を妨げる害悪だ。そんなものを考えている暇があるなら、前を見てくれ、総帥。あんたは、俺たちのリーダーじゃないか」

 サニーの言葉を聞いて、メアリーは言葉を止める。

 しかし、積もり積もった想いは未だ有り余っているようで、彼女はそのまま泣き出してしまった。

「うわああああああん……!」

「やれやれ、また始まったの。過去なんてどうだっていい、とサニーが言ったばかりなのに」

 ライトニングはそう言うと、メアリーのおでこに触れた。

「いったい何を……」

「見ていれば、分かるの」

 すると、メアリーのおでこから何か黒い靄が出てきた。

 その靄はそのままライトニングの手に吸い込まれていくと、それに染め上げられるように彼女の腕が黒く染まっていく。

「今回は……流石に量が多いの」

「無理するな、ライトニング!」

「良いのよ……、眷属は、この『常闇の女王』は、メアリー・ホープキンに仕えるために存在している。メアリーの痛みを取り除けるならば、この命を賭しても構わないの……」

「だが!」

「…………終わったの」

 そこで、靄の排出が終わった。

 メアリーは泣き止んでいた。そして、ケロっとした表情で、二人を見つめていた。

「……ごめんなさい、また二人に迷惑をかけていたようね……」

「良いの、別に、良いの」

 リニックとリストは何が起きているのかさっぱり分からなかった。

 しかしながら、リニックは何となくであったが、感じていた。

 彼女たちには、普通の『仲間』ではない、何処か歪な関係があるのだということに。