英雄譚なんて、僕には似合わない。第13話②
その後は何事もなくゆっくりとなっていき、やがて『無重力』となった。
『お待たせいたしました。現時刻をもちまして、自動運転に切り替えさせていただきます。また、シートベルトも解除していただいて構いません。なお、現在は宇宙空間上を飛行しているため、「無重力」状態にあります。ご注意ください』
「無重力?」
「要するに重力が無いんですよ。言ってしまえば、僕たちを地面に縛り付けているエネルギーが重力なんですけれど、それが無いということはどういうことか分かります?」
「馬鹿にしてるの?」
流石のメアリーもこれには怒り心頭らしく、
「私はこれでもラドーム学院を首席で卒業しているんだからね。まあ、世界を救うために何年か留年したとはいえ」
鼻高々にそう言うが、現在ラドーム学院は存在しないため、彼女の地位も無いに等しい。
「……まあ、いいわ。つまり、重力が無いってことは、天地がはっきりしないってことでしょう? 要するにふわふわと、」
「あれ? もうシートベルトを外していいとアナウンスしたのに、未だ外されていないんですか?」
メアリーが言いたかったことの具現化をしに来たかのように、リストがふわふわと浮かびながらこちらにやってきた。
手すりに捕まらないと制御出来ないためか、手すりに捕まりながらゆっくりとこちらに向かってくる。
「……つまりは、こんな風になるのでしょう?」
「分かってました、それ?」
「五月蝿いわね! ぐちぐち言ってたらモテないわよ」
「いや、そう言うつもりで言ったんじゃないんですけれど……」
メアリーと話を続けていると怒られてばかりだと実感したリニックは、会話相手をリストにスライドさせていく。
「ところでリスト、自動運転と言っていたが先ずは何処に向かうつもりだ?」
「取り敢えずカトルにしておきましたけれど。ダメなら変えますが」
「いや、それで良いわ。カトルには剣を守るために用意した『盾』が居るから」
「盾?」
「メリア・シールダー。かつて偉大なる戦いでその身を削った『英霊』とも呼べる存在。……そして今は、剣を守りし盾となりて、剣を手に入れようとする者に試練を与える存在よ」