増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第12話③

「……詳しいのね」

「いえいえ。これぐらいこのターミナルで働く人間として常識の範囲内ですよ!」

「そう。なら、良いのだけれど」

 熱意のこもったリストの答えに対して、メアリーは冷たく遇らう。それはどうかとリニックは思ったのだが、しかしリニックにとってみれば自分の得意分野を全く興味のない人間に話したら、それはそれで同じ反応を取られる(軽く遇らわれるか無視される)ことだろう。

 メアリーは早速椅子に腰掛け、シートベルトを締める。早く出せとでも言いたいのだろうか、リストに熱い視線を送っている。

 そしてリストもそれを理解したのか、渋々操縦席へと向かっていった。

 リニックたちは椅子に腰掛けたままだったため、そのままシートベルトを締めることとなった。かちゃり、と金属音がすることを確認し、外れないことを何度もシートベルトを引っ張って確認する。

「……これで良いのかしら? 初めてのことだからワクワクが止まらないわ。あー、長生きしてて良かった!」

 その発言は彼女の容姿からすると不適当なようにも思えるが、しかしそう見えても百歳を優に超えているため、その発言は適当であると言えるだろう。

『ご乗車の皆様、まもなく本船は離陸準備に入ります。シートベルトの着用をもう一度ご確認下さい。……シートベルトの着用を、もう一度ご確認下さい』

 そして、ゆっくりと船が動き出す。窓はついていないため、外の景色を窺い知ることは出来ない。しかし、今から飛び出すのだということに関しては誰もが緊張しているようで、軽口を叩いていたサニーですらシートベルトをがっしりと握り、何も言わずに目を瞑っていた。案外こういうことが苦手なのかもしれない。

 そして、メアリーたちを乗せた船は、無事アースを離陸するのだった。