英雄譚なんて、僕には似合わない。第12話②
「それにしても……、なんというか豪華よね……」
メアリーの言葉に同意しない者は居なかった。
「確かに、もう少し質素なものを想像していましたよ。あるものはトイレだけ、みたいな」
中に入ってみると、キッチン(しかも冷蔵庫まで完備されている)にトイレ、シャワーまでついている。ベッドも充分な数用意されており、一種のホテルに近い感覚だった。
とにかくアンダーピースの面々は何処かで休みたかったので、キッチンの隣にあるリビングスペースに集まることにした。六人分の椅子と、テーブルが置かれている。彼らはそれぞれ椅子に腰掛けた。
「……あとはリストが許可を貰ってくるのを待つだけね」
「でも、そんな簡単に許可がおりるのか?」
「サニー、私に聞かれても分からないわよ。それとも、何か分かると思ってその質問をしたのかしら?」
「……いいや、そういうわけでは無いが」
「なら、宜しい。彼は悪気が無いように見えたわ。それに、明確な目標を持っている。だから彼を利用するしか無いのよ。win-winの関係、とは言ったでしょう? まあ、はっきり言って純粋無垢な少年の感情を利用するのはどうかと思うけれどね……」
「お待たせしました!」
リストがやってきたのは、メアリーの言葉に全員が感慨に耽っている、そんなタイミングでのことだった。
「……あ、あれ? どうかしましたか?」
リストは直ぐに違和感に気付き、メアリーたちに問いかける。
メアリーはなんでも無いわ、と代表して答え、さらに話を続けた。
「ところでリスト、その様子だと『試験飛行』の許可は貰えたのかしら?」
「ええ。なんとか下りましたよ! 月までの飛行と言われましたが、そんなの全然無視しちゃっていいですよね?」
「ええ。最悪あなたが悪くならないように何とかこっちでフォローするわ。……それじゃあ、私たちは操縦席に向かえばいいのかしら?」
「いえ、その必要はありません。重力場操作システムが作動する最新型なので、離陸時と着陸時のみシートベルトをして貰えれば! ほら、ちょうど皆さんが座っている椅子にもシートベルトがついているでしょう? 因みにその椅子もスライド式で、ある一定の場所までしか動かないようになっているんですよ。……気付きました?」