増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第12話①

「ロケットは意外と余っているんです。だってそこまで飛空士が育っていないから。けれど、飛空士の大半は早く自分の手でロケットを飛ばしたいと思っていますよ。当然じゃあないですか、ロケットを飛ばすのは男の子のロマンですからね!」
 鍵をくるくると回しながら、リストは歩いていた。
 そして彼を先頭にしてアンダーピースの面々はロケット試験場と呼ばれる場所を歩いていた。
「な、なあ。流石に盗むとはいえ、こんな堂々としていていいのか? 直ぐにばれそうな気がするけれど……」
「僕はここのメイン整備士を任されていますからね! 安心ですよ。流石に、僕が誰かを連れ込もうなんてことは誰も思いませんでしょうし、思っても新入りの研修か何かと思うでしょうね。というかそういう風に取り繕うのでそう考えていてください」
「というか。意外と図太い製革しているわね、あなた。まあ、別に良いのだけれど」
 メアリーは流石に彼の図太い性格に目を見張るようになったようで、同格の立ち位置で彼を見ている。もうとっくに彼はアンダーピースのメンバーの一人となったようだった。
 リストは一機のロケットを見ると、それを指さした。
「これにしましょう。ちょうど鍵も持っていますし」
「これを使うの?」
 それは戦闘機のような、飛行機のような、そんな形をしていた。
「……これを使うのね?」
「ええ、そうですよ。ってかなんで二回聞いたんですか」
「ちょっと気になったのと、あなたの反応速度が遅かったから」
「……だって今からこれを操縦出来ると思うと、胸が高鳴りまして! だってそうじゃないですか、この『スペースシャトル』のかっこよさ! あ、名前はそう言うんですけれど、『宇宙列車』という意味でスペースシャトルという名前をつけられたらしいんですけれど、普通の飛行機やロケットとは違って、大勢の人間を運ぶことが出来るような仕組みが組み込まれているロケットなのですよ! 何でもプロトタイプはかつてスノーフォグが旧文明の資料を集めたことから始まったらしいのですけれど、それによって今、この現代に復活するって素晴らしいですよねっ! 素晴らしい、素晴らしいでしょう!?」
「……ああ、ええ、そうね」
 何かめんどくさい相手を仲間にしてしまった、と今更ながら後悔するメアリー。
 リストは慣れた手つきで扉を開けると、中へ皆を案内する。
「どうぞ、中へ。取りあえず試験飛行という名目で今から申請してくるので、中で待っていてください。鍵は閉めるので、絶対に開けないでくださいね。あと、外から見られる可能性も高いので、操縦席にも行かないでください。では、また!」
 早々に話を切り上げて、さっさとリストは外へ出て行ってしまった。
 残されたメアリーたちアンダーピースの面々は、取りあえず中を探索することにした。