英雄譚なんて、僕には似合わない。第11話①
そして、上層。宇宙ステーション。
難なく到着したメアリーたちは、屹立しているロケットの数々を眺めていた。
「本当にこの鉄の塊が宇宙まで飛ぶのかしら……?」
「疑問に思っているなら使わなくても良いんだぜ。ほら、転移魔法を使う手もあるじゃないか」
「サニー。転移魔法はね、もう片方に魔方陣がないと成立しない不完全な魔法よ。仮に運良く誰が転移魔法を作り出していたとしても、魔方陣を解析することは不可能に近いわ」
「へいへい。知っていますよ。それくらい常識の範囲内ですよ」
「呆れた。あなた知っているのにわざとその質問をしたのね?」
メアリーは頬を膨らませる。何だかその様子が小動物のようでとてもかわいらしい。
「……まあ、とにかくロケットの一つを奪うとしても、どうしましょうか……。問題は、飛行士も一緒に来て貰う必要があるのよね」
「飛行士がいないんですか?」
リニックの言葉に、メアリーは余所余所しく頷く。
「……残念ながらね。そこまでは集め切れていないというか。まあ、何とか現地調達でなるかなあとは思っているのだけれど。リニック、あなたは流石に飛空士の免許を持っては……居ないわよねえ」
「残念ながら。というか普通はロケットの操縦なんてしませんから」
「そうよねえ……となると、やっぱり飛空士を誘拐しないと話にならないということよね」
「ロケットに運良く飛空士が居ればそいつを脅せば良いんですけれどね」
けろっとした表情でとんでもないことを言うレイニー。
彼女もこの組織の経験が長いらしく、普通にそんなアイディアが浮かんでくるらしい。
そして、彼女たちは吟味するようにじろじろと眺めながら、ロケットの隙間を歩いて行く。
「あの、少し宜しいでしょうか」
声をかけられたのはリニックだった。
「……はい? どうしましたか?」
もしかして、怪しまれたのだろうか――なんてことを考えていたが、直ぐにそれは杞憂であると思い知らされる。
「もしかして、ロケットを泥棒しようと思っていますかっ?」
目をキラキラと輝かせて、彼はそんなことを大声で言い出した。
急いでレイニーが口を塞ぎ、手に持っていた拳銃を彼の頭に当てる。
「……何処まで知っている? それを本部に知らせて、私たちを捕まえるつもりか。それとも、ラグナロクの仲間か?」
レイニーの言葉は、重く、冷たく、そして的確だった。
しかし、彼はずっと首を横に振るだけだった。涙を流していたが、レイニーにはそんなこと虚仮威し程度にしか思わなかったのだろう。