英雄譚なんて、僕には似合わない。第10話③
「思い?」
ロマは首を傾げる。
「そう。あなたの思いが強かったからこそ、私はともにあろうと思ったのですよ、ロマ様」
「……ふうん、よく分からないけれど、あなたのおかげでこの組織はとても大きくなった。本当に感謝しないとね!」
そしてロマは立ち上がると、慌てて外へ出て行った。
残されたオール・アイはぽつりと呟く。
「……小娘が。何も知らない小娘が。ただただ『希望』に縋って生きているだけの小娘が。そんなことで生きていけるとでも思っているのか。そんなことで生きていこうと思えるのか。馬鹿馬鹿しい、世界は終わりに満ちていて、世界は崩壊への一途を辿っていようとしている。楽園教だって同じだ。そんなものに縋って何になるという。この世界は百年前にとっくに『終わっていた』世界だったのに、彼奴らが無理矢理に寿命を引き延ばした。今や延命治療の世界と言えるだろうに。……まあ、そんなことを言ったところで、人間どもは無理矢理この世界で生きていこうと思うのだろうがね」
オール・アイは一口スープを啜った。
「このスープだって、そうだ。本当はもう『生物の生命を食べる』という行為すら出来ない動物なのだ。ならば世界はさっさと滅んでしまった方が良い。そのためにも、彼女たちは有効活用せねばなるまい。そう、ラグナロク……かつての古い言葉で『最終決戦』とも言われたその言葉、存分に活用させて貰うぞ」
その言葉は、誰にも聞こえるはずがない。
誰も居ない一人の部屋で、彼女がぽつりと呟いた闇。
その言葉の真意を、第三者が知ることになるのは、かなり後の話となる。