英雄譚なんて、僕には似合わない。第10話②
「楽園教って……確かに、変わったところだな、とは思ったんですけれど」
「例えば?」
「楽園は必ず存在する、と言って高い物品を買わされるらしいんです。それを持っていると、楽園に必ず行くことが出来るというチケット的な感覚で」
「あほくさ。そんなので行けるわけがない。それに『楽園』なんてほんとうに存在すると思っているのかしら?」
「思っている人が多いからこそ、楽園教に多くの信徒が集まるんじゃないですか」
「ふうん」
スープを飲み干し、両手を合わせるメアリー。
「ま、私は何も関係ないけれどね。だからといって楽園に行けなくなるぞ、と脅されたところで、そうですかでも楽園には行きたくありませんと言い張るだけで良いし」
「そもそも……どうして楽園教は人類を束ねることが出来たんですか?」
「不安を取り除くためには、宗教が一番って話、聞いたことない?」
「?」
「そもそも、宗教は不安を持つ人間が想像の範囲内で生み出した『偶像』と言われているわ。勿論、神が居ないとは言わない。現にガラムドという世界の管理者が居る時点で、神という存在は本当に存在しているということが証明されているのだから。……けれど、それとこれとは話が別。結局、人間が崇拝しなければ神は存在出来ないし、崇拝すれば神は所詮贋物であっても存在出来てしまう。贋物が本物以上に努力して、本物に近い風になってしまうというのは良くある話よ」
立ち上がり、部屋を出ようとするメアリー。
「総帥、どちらへ?」
「準備をしてくるわ。……あなたたちも早く朝食を食べ終えなさい。急がないと、チャンスを失うわよ」
そうして、メアリーは部屋の外へと出て行った。
◇◇◇
ラグナロク本部。
オール・アイとロマは朝食を取っていた。
「……オール・アイ。本当に、今日ロケットを奪いに宇宙ステーションにやってくるのよね?」
「ええ、その通りですよ。……私の預言に間違いはありません」
「ふうん。なら良いけれど。……ま、私はお兄様が蘇ればそれでいいんだけれどね♪」
トーストを頬張って、無理矢理口の中に詰め込めていく。そしてそれを牛乳で流し込んで、ごくりと飲み込んだ。
「ご馳走様。あなたは今日は出ないつもり?」
「そうですね。今日も、神に祈りを捧げるつもりです」
「神、ねえ。楽園教も神に祈りを捧げているというけれど、どうしてあなたみたいな人間が私に協力してくれるのかしら?」
「それは、あなたの『思い』が強いからですよ、ロマ様」