増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第10話①

第二章

 

「宇宙ステーション?」
「そ。私たちはロケットを持ち合わせていないからね。結果的に上層にある飛行場からロケットを奪うことになるの」
 次の日の朝食。
 あの長テーブルで座っているのは、レイニーとライトニング、それにサニーとメアリー、最後にリニックの五人だ。てっきり組織というものだからもっと大所帯なのかと思いきやこれで全員なのだという。何というか、もっと人数を雇えば良いのに、と思うリニックだったが――。
 どうやらメアリー――総帥自体が少数精鋭を好んでいるらしく、あまりこれ以上人員を増やしたくないらしいのだ。それは何故知っているかというと、今朝こっそりとレイニーに聞いたためである。
 メアリーの話は続く。
「本当は奪うなんて傲慢なやり方、したくないのだけれど。私たちがロケットを所有していないのだから、仕方ないことよね。だから――」
「あの、一つ良いですか」
 リニックが問いかける。
「何?」
「メアリーさんは予言の勇者の一行として、百年前に世界を救ったんですよね? ならば、どうしてこんな地下組織で暗躍しないといけないんですか? もっと、待遇が良くてもいいだろうに……」
「百年前、何が起きたか、歴史の教科書を読み返せば分かる話よ」
「血の雨が降った日、ですよね。分かっています。でもそれが原因で……?」
「それを引き起こした人物こそ、予言の勇者、フル・ヤタクミだった」
「えっ……」
「そこまで教科書には書かれていないようね? まあ、私に取ってみればどうだっていいのだけれど。それによって『予言の勇者の一行』は悪という認識にすげ替えられた。……まったく、上手い話よ。もしリュージュがそこまで仕組んでいたというのならば、彼女は最悪の人間と言えるでしょうね」
「それを仕立て上げたのは、誰なんですか?」
「あなたも知っているでしょう、楽園教」
 楽園教。
 この世界のどこかにあると言われている楽園を崇拝する宗教だ。新興宗教でありながら、政治の中心に立ち、現在は残り僅かとなった人類を束ねているとも言われている。
「その……楽園教がどうして、あなたたちを?」
「さあね、邪魔だったんじゃあない?」
 彼女はトーストを頬張る。さくり、という音が部屋の中に響き渡った。