英雄譚なんて、僕には似合わない。第9話③
食事とは、いかに今まで自分は違った価値観で得ていた物だと言うことを思い知らされる。
「……これ、回収してくれるのかな」
リニックはプレートがやってきた扉を開けて、そこにプレートを仕舞う。
すると機械の動く音がした。どこかにプレートは移動していったようだった。
再度ベッドに横たわる。
考えることはやはり今後のことだ。今後は、アンダーピースと行動を共にすることになるのだろう。
しかし、彼女たちの目的が何であるのか――正直未だに分かっていないのが事実である。
「でも、分かったところで何をすればいいのやら」
結局は彼女たちに従うほかないのだ。
そこに僕の自由意志は存在しない。
そこに僕の意志は存在しない。
ならば僕はいったい――何者なんだ?
ただ彼らに縛られただけの、祭られているだけの、ただ英雄という存在に縋っているだけではないのだろうか?
「まあ、明日もう一度メアリーに聞くしか無いのか……」
そう思って、僕は目を瞑った。ご飯を食べ終えたばかりの睡眠は身体に良くないと聞いたけれど、でも何もやることが無いんだ。致し方ないと言えば仕方ない。
そうしてそのまま意識の中へ微睡んでいった――。
◇◇◇
メアリーが月を眺めながら、ワインを飲んでいた。
「……総帥。あまり飲み過ぎませんよう。身体に差し支えますよ」
レイニーの言葉を聞いて、彼女は笑みを浮かべる。
「そうね。……ついつい救世主が見つかったから飲み過ぎちゃったわ。でも、大丈夫。これで終わりにするから」
「なら良いですけれど。……総帥、あなただって目的はあるのでしょうから、長生きはするべきですよ。もうとっくに人間の寿命は上回っているとは思いますが」
「そうね。私は色々と長く生きすぎた。それで人間の寿命は定められていてこそ輝くのだと思い知らされた。祈祷師の血を今でも恨んでいるわ。長生きをすると、周りが皆早く死んでいくんだもの……。私だけが残されていく、その気持ちは誰にも味わえないでしょう」
「……今日は風が寒いです。窓を閉めた方が宜しいかと」
「ありがとう。もうすぐ閉めるわ。おやすみなさい、レイニー」
「おやすみなさいませ、総帥」
そうして、レイニーは外へ出て行った。
また一人きりになった彼女は、月を眺めてぽつりと呟く。
「もう少しよ、フル。またあなたに会える時が近づいてきているの……」
その言葉は、誰にも聞こえることは無かった。
第一章 完