増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第9話②

「……とは言ったものの。やはり気になるのが、」
 救世主という存在。
 彼を何故救世主と呼ぶのか。そして、それほどの災厄が今後起きるというのか。
 それは、きっと今聞いたところで教えてくれそうにないだろう――彼はそう思っていた。
 聞かずに後悔するよりも、聞いて後悔した方が良いのが普通だ。
 しかしながら、リニックは冒険をしない性格である。あまり、冒険をしたがらない。あくまで安全牌で行こうとしていくのが彼のスタンスだ。
 だから今回のことは完全なる想定外で、彼のスタンスで行くならば拒否するべきだった。
 しかし、それ以上に彼の探究心を擽っていたものがあった。
 予言の勇者、フル・ヤタクミとともに行動していた一人――メアリー・ホープキンとの謁見。
 それによってどのような知識が得られるかは分からない。
 しかし、彼女が使っていたと言われている『錬金魔術』、その真意を知ることが出来る。
 そうでなくても百年前の出来事について、実際に経験した人間から聞くことが出来る。
 それは彼にとって有益なことであるし、きっとアンダーピースにとっても有益なことだ。
「……まあ、詳しい話は明日聞けば良いよな……」
 そんなことを思いながら、彼はベッドに横になる。
 同時に、テーブルの脇の扉がせり上がり、そこからプレートが出てきた。
「……何だ?」
 プレートを見ると、焼き肉の切り身、サラダ、少量のご飯と錠剤が数錠、それに水の入ったコップがのっかっている。
 普段の生活じゃあなかなかお目にかかれないものばかりだったので、リニックは本物かどうか疑念を抱いたが、しかし食欲には勝てないものだ。
「一口だけ食べてみて……確認してみよう」
 そう思い、彼は焼き肉の切り身を一枚フォークで手に取り、口に入れた。
 そのときの衝撃は、まるで電撃が走ったかのようだった。いつもペースト状の食品を食べていた彼にとって、それはあまりにも衝撃的であり、信じられない味だった。
「……美味い!」
 ぱくぱく、もぐもぐ。
 気づけば彼はそれにがっついていた。お腹が空いていた訳では無い。けれども、ものの数分でそれを完食すると、彼は満足感を得ていた。普段食べているペースト状のそれでは得られない感覚だった。
「これが……食事……!」