増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第8話②

「正確には、宇宙と言うよりはアースの周囲にある星々でしょうね」
「?」
「管理者はどんなものにも、修正プログラムを用意しておくものです。偉大なる戦いで散った五つの星々にはそれぞれ『鍵』があります。その鍵を使うことで、どんな願いをも叶えることが出来る。……どうです、素晴らしいことだとは思いませんか?」
「す、素晴らしい! 素晴らしいわ! ……ほら、こういう情報こそ私の欲していたものよ。あなたたち肉体しか能が無い人間には何も出来ないでしょうけれどね!」
「……なので、彼らを利用致しましょう」
「彼ら?」
「アンダーピースを利用するのです」
 それを聞いたロマは眉を顰める。
「いったいあなたは何を言っているのか、分かっているの?」
「分かっています。分かって忌ますとも。だからこそ、言いたいのです。彼らには敢えて泳がせましょう。宇宙ステーションの襲撃をデコイとして、わざとこのアースの外へ飛び出させるのです。あとは流れに沿って鍵を手に入れて貰い……」
「最後に鍵を奪い取る、ということね! さすがはオール・アイ。分かっているじゃない」
「ええ。あなた様のことなら何なりと。何せ私は『すべてを見通すことが出来ます』故」

 ◇◇◇

「宇宙ステーション?」
「剣は隠しているのよ。……何せ、誰に使われるか分かったものじゃない。適性者の心によっては悪い方にも良い方にも変化してしまうそれを、何もプロテクトを講じずに置いておく訳がないでしょう? だから宇宙への進出が出来た段階で剣をアースの外惑星のどこかに隠したのよ。アント、トゥーラ、トロワ、カトル、サンクのどこかにね」
「どこに隠したか……ってのは分からないんですか?」
「それは私を馬鹿にしているわね?」
 リニックはそれを聞いて首を激しく横に振る。
 そんなことは無い、という強い意思表示だ。
「……まあ、冗談は置いといて。確かトロワに隠しておいたはずよ。彼らとは友好関係を築けたからね。それに、彼らも偉大なる戦いでともに戦ったからということで人間を敬ってくれていた。確か彼らの神の形は人間の形そのものなのよ」
「ということは、人間が住んでいる訳じゃないんですね?」
「当然じゃない。私たちの惑星から分離して二千年よ。若干の変化が起きていてもおかしくないでしょう?」
「それもそうかもしれませんけれど……」
「とにかく! 適格者であるあなたを剣の元へ運ぶのが私たちの使命なの。それは理解して貰いたいな。……あ、家に戻ることは許されないからね。だって家に戻ってラグナロクの連中が待ち構えていたらどうするのよ」
「部屋は……どうすれば?」
「それくらい用意しているから安心なさい。レイニー、部屋まで案内して」
「かしこまりました」
 メアリーの言葉を聞いて頷くレイニー。
 そうして彼らはリニックのために用意された部屋へと向かうのだった。