増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第7話②

「そりゃあまあ……栄養がとれていれば良いんじゃないんですか。現に、あれに文句を言っている人間なんて居ないじゃないですか」
「違うわ、違うのよ。何を考えているかあなたの考えを聞かせて欲しいけれど……、そんな栄養とエネルギーだけ摂取するような食事で何が生まれるのよ? アイデアが生まれると思っているの? すべてが管理された世界は、息苦しいとは思わない? 私は息苦しいと思っているわ。この世界、この時代。あの時代から僅か百年で人間はこうなってしまったのだ、と。長生きする意味も、ここまで来てしまえば何も生まれないわよ」
「でも、世界はそれで納得している」
「納得しているの、あなたは?」
 鸚鵡返しのように返されたリニックは、どう答えればいいか分からなくなってしまった。
 何せ彼も、今までそのように学んできたのだから。
 何せ彼も、一人の人間として扱われずにやってきたのだから。
「はっきり言ってしまうとね、リニック。この世界の人間はもうロボットと大差無い。だからこそ、いつか革命を起こさなくてはならないのよ。革命。分かるかしら、言っている意味が? 世界に革新的な何かを起こさないと、これ以上この世界は成長しない。それは誰だって分かっているはずなのに、誰もやろうとはしない。それが間違っているのよ。そして、その『間違い』を正さなくてはならないのが、私たち『アンダーピース』」
 アンダーピース。
 革命。
 この世界の人間はロボットと大差無い。
 その発言を聞いた彼は――頭の中がごちゃ混ぜになっていた。
「……世界をどうしようったって、一人の力じゃあ何も出来ない」
「だから私たちは組織を結成した」
「具体的にはどうやって、世界を救うんだよ! 僕が救世主だと、あなたは言った! けれど、僕はただの人間だ。そんなこと、出来るわけがない!」
「やってみないと分からないわ。現にあなたは――」
「英雄? 救世主? そんなことと無縁の生活を送ってきたのに、突然テロリストに襲われて、テロリストに攫われて、やってきた場所で語られた内容が『救世主』だって? ちゃんちゃらおかしいだろ! それをどう思っているのか分からないけれど、僕はただ平和に暮らしたいだけなんだ――」
 ぱあんっ!
 リニックの言葉が途中で中断する。
 その理由は、リニックの右頬を思い切りメアリーが叩いたからだった。