英雄譚なんて、僕には似合わない。第5話②
「……変なの」
「攫ってこいといったのはあなたではありませんか、総帥」
「そりゃあそうだけれどさあ……。こんな変わり者だとは思わなかったよ。だからといって捨て置くわけにもいかないしね。やっぱり世界を救う存在って変わり者が多いのかな?」
「それだと、百年前のあなたの知り合いをも傷つけることになりますが」
「レイニー……? 言って良いことと悪いことがあるわよ?」
「あ、あのー……僕はいったいどうすれば……?」
すっかり置いてけぼりにされてしまった彼は、二人の間に何とか入ろうとする。
それを聞いた総帥は、残っていたパンを口の中に放り込んで、
「ああ、ごめんなさいね。まったく、使えない部下を持つと困ったものね。……それはそれとして、あなたがリニック・フィナンスで間違いないわね?」
「ええ。もう何度も質問されていますが。それとも、そんなに自分の証明が必要ですか?」
「必要も必要。当然なぐらいにね。あなたは世界の救世主と言われるべき存在なのだから。……ところであなた、歴史の知識は?」
「人並みには。嫌いでは無かったので」
「宜しい。それじゃあ、百年前にあった『世界の亀裂』は知ってるわね?」
「世界の亀裂……この世界と別の世界が一瞬だけ繋がった、次元ホールのことですか」
こくり、と総帥は頷いた。
「それさえ分かれば十分ね。完璧と言っていいぐらい。……んで、その亀裂によって世界にどんな影響が生じたか分かる?」
「どんな影響、って……」
「……残念ながら、特に影響は無かった。だって直ぐ終わってしまったから。強いて言うなら、特異な現象を目の当たりにすることが出来たぐらいかしら。……だからこそ、世界がどうなろうとも私は知ったことではなかったけれど」
「知ったことではない、というかあなたは当事者だったじゃないですか、総帥」
レイニーの言葉を聞いて、小さく舌打ちする総帥。
彼女に対する扱いはいつもそうなのか、レイニーはただ笑うだけだった。
「……確かにその通りだったけれど、でも案外何も変わらなかった。世界は変わることを辞めたと言ってもいいわね。もしかしたらビッグバンでも起きて大きな成長が見込めたかもしれない。もしかしたら百年前にそれを成し遂げた悪はそれを狙っていたかもしれない。けれど、結果は……見ての通り。人間の住居領域を狭めただけに過ぎず、それ以外の空白領域には、メタモルフォーズのなり損ないが蔓延るばかり。……浄化するには何千年もかかると言われているし、ほんと、迷惑しかかけないわよね。ここでガラムドの書でもあれば何か変わったのかもしれないけれど……」
「ガラムドの書?」
「ううん、こっちの話。気にしないで。……ええと、先ずは自己紹介かしらね」
少しずつ、部屋が明るくなっていく。
そして、総帥――彼女の姿が目の当たりになった。
彼女の顔を、リニックは見たことがあった。
「あ、あなたは……」
「はじめまして、で良いわよね。私の名前はメアリー・ホープキン。アンダーピースの総帥にして、百年前予言の勇者とともに世界を救った仲間の一人よ」