英雄譚なんて、僕には似合わない。第4話③
「朝が弱い……ねえ」
リニックは彼の行く先を眺めながら、独りごちる。
「まあまあ、彼と話をするなら、後でいくらでも出来るはずだから。……きっと」
「出来ないことは約束しない方が良いの。あなただって知っていると思ったけれど」
「ええ、そうですよ、知っていますよ、それくらいは! ……こほん、」
咳払いを一つ。
「話を戻しますね? 今、この先には私たちアンダーピースの総帥がいる部屋があります。どういうことか、あなたには分かりますよね?」
「総帥と話をして……今後を決めろ、とでも言いたいのか?」
「話が早いの。レイニーとは大違いなの」
「ちょっとちょっと! 何勝手に話を進めちゃってるんですか、ってか人の過去暴露してるんですか! ……まあ、そうなんですが、多分あなたは十中八九アンダーピースへの加入を勧められると思います」
十中八九なのか。
リニックは首を傾げながら、彼女の話に頷く。
「いずれにせよ……彼女はちょっと気難しい人間です。あなたの行動一つであなたの指が消し飛ぶと思ってください」
「それは言い過ぎなの。あれはただの我儘なの」
「あなたが言いますか、それを?」
「……まあ、つまり、我儘な人間の言うことをそのまま付き合えば、僕の命は保証される、ということですよね?」
リニックが結論づける。
「それはその通りなのだけれど……」
「何ですか、まだ何か言うことが?」
「いや! 全然! とにかく入ってきてちょうだい!」
そう言われて。
リニックは二人に押されるように、部屋へと入っていった。
部屋は広い一室だった。中央にテーブルが置かれており、その向かいには一人の女性が腰掛けている。
女性は赤ワインを飲み、パンを食べている。どれもこの世界では高級品とも言えるものだ。いったいどうして彼女はそれを口にすることが出来るのか――リニックはそんなことを考えていた。
「遙か昔、人々は赤ワインとパンを神の血肉に例えていたらしい」
りんと、透き通った声だった。