英雄譚なんて、僕には似合わない。第4話②
道をすすむと、突き当たりにさしかかる。
レイニーはそこで立ち止まり、左右を確認しだした。ただの安全確認、というわけでもないだろう。
だとすれば、可能性は一つだけだ。
「……レイニー、さん? まさかその……迷子になったとか言わないですよね?」
リニックはあまり人の心を読もうとはしない。読むことが出来ないのだから当然かもしれないが、普通は空気を読んで敢えて質問をしなかったり、或いはそのまま無視するか、どちらに向かうべきか進言するというものである。
しかし、そういったことが嫌いだった彼は、ばっさりとレイニーに言い放った。
レイニーは急にそんなことを言われてしまったので、目を丸くしてそちらを振り向く。
「え、ええ? 別にそんなことは無いわよ。ええと、順番を……そう! 順番を確認していただけなのだから!」
「順番?」
「そう、次の角をどう曲がるかとか。そういうことを考えないと、迷子になっちゃう――」
「一応言っておくが、そんなことはまったくデタラメだぞ。あり得ない。眷属が作り上げた迷宮でもあるまいし、たかが人間に作り上げた場所が迷宮になり得る訳がない」
「それもまあ、そうなんですけれど……。あ、ここだここだ」
扉を潜ると漸く人と出くわすことになった。
「……なんだ、レイニーじゃないか。それにライトニングも一緒で。何かあったのか?」
「何かあったのか、とはとぼけたことを言いますね、サニー。あなたも参加せざるを得ない作戦の一つだったのに、結局あなたは参加しなかった。だから私が代わりに出たのですよ。まったく、眷属の力は普通の力ではないのですから、それくらい理解して貰いたかったものですけれど」
「悪い、悪かった」
痩せぎすの男は、リニックよりも背が高かった。
それでいて目つきの悪かった彼は、どこか不気味な印象を思い浮かべてしまう。
いや、或いは恐怖とでも言えば良いか。いずれにせよ、いい印象を抱けないのが事実だ。
「……サニー、それにしてもあなたはまた寝ていたのですか? 幾ら何でも寝過ぎではないの?」
「るっせえな、お前は俺の保護者かよ」
サニーは頭を掻いて、そのままもう一つの扉へと入っていく。
「ちなみにもう一つの部屋は、トイレですから」
「あ、ああ。分かった。ところでさっきのは……」
「私たちの言葉では、サニーと呼ばれています。あれでも頭が良いから、作戦を指揮するときのリーダーになることが多いのですよ。問題は、朝が弱いところでしょうか……」