増刊 かわらや日記

巫夏希の日常

英雄譚なんて、僕には似合わない。第4話①

 たどり着いた先にあったのは、小部屋だった。

「小部屋……? いったい、どんな魔法を使えばこんな術が……」
「魔法じゃないの。眷属の力なの。言ってしまえば、世界の次元をねじ曲げただけに過ぎないの」
「いや、簡単に言っていますけれど、それとんでもなく凄いことですからね……?」

 レイニーとライトニングが何か言っているが、リニックにはさっぱり分からない。
 仕方ないのでリニックは小部屋の様子を確認することとした。
 小部屋は、何も飾られていない、白い壁に覆われた質素な部屋だった。

「質素な部屋だ……扉しかない。いったいここは何の部屋なんですか?」
「簡単に言えば、『常闇の門』専用の部屋なの。突然別の部屋に招き入れるよりも、その専用の部屋を用意しておけば問題ないだろう、という結論に至った上でのことなの」
「あの、全然意味が分からないんですけれど……。もう少し簡単に教えてもらえないですか?」
「先ずは総帥にお会いした方が早いでしょう。ええ、きっとそのほうがいいはずです」

 扉を開け、中へ――その場合は外、と言った方が良いのだろうか――彼を促す。
 彼はそれ以外何もすることは無いと判断し、部屋を出ることにした。
 部屋の外は、幾何学模様が壁に描かれた廊下が広がっていた。
 誰も居ない、がらんどうの場所。
 まるで彼ら以外、誰も居ないような廃墟に近い場所。

「……あの、ほんとうにここって『アンダーピース』のアジトなんですよね?」
「ええ、そうですけれど?」
「誰も居ないように見えるんですけれど」
「ああ、それは――」
「フェイクなの。敵に見つからないようにするために」
「敵? さっきの『ラグナロク』とか言っていた連中のことですか?」
「まあ、それはまた追々……」

 廊下を歩く。足音だけがこつこつと響く。その音は反響し、廊下の広さを思い知らされる。
 不気味な感覚が立ちこめていたが、しかし何も出来ないこともまた事実。
 仕方なくリニックは、レイニーの歩む道をそのまま進んでいくしかないのだった。