英雄譚なんて、僕には似合わない。第3話②
そんなことを言われても、となってしまうリニック。
しかしその沈黙を許さない現状がある。
爆撃は鳴り止まない。足音が着実にこちらに近づいてきている。
「さあ、どうしますか。どうなさいますかっ。急がないと、私もあなたもランデブー?」
「何を言いたいのかさっぱり分からないけれど、分かった! 分かったよ! とにかく、一緒に出るしかねえだろっ!」
「そうこなくっちゃ!」
「何をしているの、レイニー」
気づけば。
少女がふわふわと浮かんでいた。
否、それは少女と呼べるのか?
少女と言うよりも――幼女。
それも金属バットを持った幼女が、ふわふわと浮かんでいた。
「……ライトニング……! あなた、いったいどうしてここに……!」
ぼこっ。
レイニーが驚いていると、ライトニングが持っていた金属バットで彼女の頭を殴りつけた。
「どうして殴るんですかあ! 痛いですよ!」
「そもそも、今回は私とあなたの合同作戦だったはず。忘れていたのかしら?」
「え、えーと……そうでしたっけ?」
ぼこっ。ぼこっ。
今度は二発。
「痛いですってえ……、ぐすっ、ひぐっ……」
あまりの痛さにレイニーは泣いていた。
それを見てさすがのリニックも、どうすればいいのか分からなくなっていたのだが、
「さて、あなたがリニック・フィナンスね。……何というか、想像より腑抜けているように見えるけれど、ほんとうに本物?」
「ええっ、本物ですよっ。だって、それは『総帥』が確認してるじゃないですかっ!」
「総帥……ああ、彼女の話は冗談半分で聞いた方が良いと思うけれど。だって、彼女、お菓子食べながら作戦会議出てたでしょ?」
「ううっ、確かに、言われてみると……」
「お前達のトップって、どんだけやる気無いんだよ……。何だか、ついて行くのがどうにも、」
どんどんっ!
ドアを乱暴にノックする音が聞こえる。生憎リニックの研究室は鍵をかけていたため簡単に開くことはない。それが今回は功を奏したと言えるだろう。
「まずいっ、もうここまで来ましたか!」
「とにかく、脱出するの。『常闇の門』を利用して、」
「あれ、内臓が引っ張られる感覚がして好きじゃ無いんですけれど」
「そんなことを言っても、逃げられないの」
そうして、レイニーはライトニングに無理矢理引っ張られて、いつの間にか出現した黒い穴へと放り投げ出された。
いったいどこにそんな力があるのか――なんてリニックは他人行儀に思っていたが、
「次はあなたなの、リニック」
「ええっ? いや、僕は遠慮しておくよ……」
どんどんっ! がちゃがちゃっ! ぎーこーぎーこー!
明らかに扉を開ける音ではない音が聞こえてきている。
はっきり言ってこれ以上ここに居るのは得策ではない。
しかし、レイニーの言っていた『内臓が引っ張られる感覚』がどうにもネックになっていたリニックはなかなかそこに飛び込もうという勇気が湧かなかった。
彼の勇気が湧くよりも早く、ライトニングの手が伸びた。
「面倒なの。さっさと、飛び込むの」
そして、彼はそのままライトニングの手によって強引に黒い穴へと放り投げ出されるのだった。