英雄譚なんて、僕には似合わない。第3話①
とは、いったものの。
「……結局、どうやって脱出するんだってかあれはいったいなんなんだなんのためにこの大学を襲った!」
「……五月蝿いですね。質問は一つずつ受け付けますよ。順々に答えていくと、先ず、どうやって脱出するか……ですよね?」
リニックはこくりと頷いた。
「脱出方法は既に考えています。……敵がやってくるスピードについては正直想定外でしたが、それでも何とかなるでしょう」
「おい、今想定外ってワードが聞こえたぞ⁉︎ ほんとうに大丈夫なんだろうな……」
「私たち『アンダーピース』に掛かればそれくらいお茶の子さいさいですよ!」
アンダーピース。
地下の平和、とでも訳すべきか。その単語に彼は違和感を拭い去ることは出来なかった。
しかし、そんなことを言っている場合ではない。今はなんとかしてここから脱出せねばならないのだ。リニックは更に話を続ける。
「……兎に角、緊急事態だ。脱出手段についてはそちらに任せるよ。……後の二つについても答えてくれるだろうね?」
「もっちろーん。ええと、テロ集団が何者かという話と、何故ここを襲ったか……でしたよね? 前者についても後者についてもはっきりしています。先ず前者は、『ラグナロク』という名前のテロ組織です。目標は世界の救世主たりえる勇者の殲滅。……単純にして簡単な答えですよ。そして、何故ここを襲ったか。それも簡単。ここに勇者がいるからですよ!」
「勇者が? ……ちょっと待て、話についていけないぞ」
「ついていけなくても仕方がありません! 何せこれは未だ知っている人間も少ないですからね。世界が僅か百年で再び危機に瀕するなんて……誰も思いやしませんよ」
「百年前。……ああ、この世界がこうなってしまった元凶だったな? 噂によれば、別の世界と接続されてしまったからそのプールされていたエネルギーが膨れ上がって破裂した……って」
「そんなのデタラメですよ。半分合ってて半分違う、とでも言えばいいですか。いずれにせよ、その考えは早々に変えるべきですね。あなたは勇者なんですから!」
「……は? 今なんと」
「だーかーらー! あなたは勇者なんですよ! この世界を救う神様に認められし存在! ……あっ、正確には未だ認められてないっか。これから認められますからねー。安心してくださいっ!」
「……いや、なんの冗談だ? 僕が救世主? いったい何を……」
「ごちゃごちゃ言ったところで何一つ問題は解決しませんよっ! さあ、向かいましょう! 先ずは私たちアンダーピースのアジトへ! そうしないとあなたはさっさと殺されてしまいます! 有意義な生活、送りたいでしょう?」